追いコートリルの罠 必読
副腎皮質機能低下症と診断されて情報を探していると、「追いコートリル」という言葉に出会うことがあると思います。
自己判断で気軽にコートリルを追加するのは、一見すると、自分で体調を上手にコントロールしているように見えるかもしれません。言葉の響きが気楽なだけに、「みんながやっている正しい対処法」のように思えてしまうこともあります。
でも、長くこの病気と向き合い、ガイドラインの意図を知ってきた立場から、強く伝えておきたいことがあります。
その「追いコートリル」は、過剰投与の入り口になり、そこから抜け出せなくなるリスクがあります。
なぜ「必要最小限」なのか
副腎皮質機能低下症の補充療法では、必要最小限の補充量で維持すること、不必要な日常的増量を避けること、発熱や感染症などの明確なシックデイには適切に増量することが基本になっています。
ガイドラインがそうなっているのには、ちゃんと理由があります。
コートリルは、多ければ多いほど元気になる魔法の薬ではありません。必要以上の量を日常的に入れ続ければ、糖代謝の悪化や糖尿病、骨粗鬆症、心血管系への負担など、さまざまな問題につながります。
最近は、日常から飲みすぎていると、いざという時に効きにくくなり、副腎クリーゼのリスクにつながるのではないかという話も見かけました。調べてみると、長期的に多くのステロイドを使うことで、受容体の反応や代謝が変わるという理論もありました。
過去に一度、旅行で空港へ向かうタイミングで体調を崩し、いつもより多めにコートリルを入れたことがありました。ところが、そのあとから薬の切れが急に早くなり、飲んでも飲んでも安定しなくなりました。排出が早まったのか、別の理由だったのかはわかりません。でも、補充しているのにすぐ切れて、また飲まなければならないように感じる状態は、本当に怖かったです。
この負のループがもっと進めば、副腎クリーゼまで進んでしまう人もいるんじゃないか。
あの時、ステロイドは慎重に扱わなければならない薬だと、改めて強く感じました。
「追いコートリル」の正体
そもそも「追いコートリル」は、ガイドラインに書かれている治療法ではありません。一部の患者さんが「ガイドラインの基準では足りない」と独自の追加ルールを作り、罪悪感なく増量できるように親しみやすい名前をつけて、周囲にも勧めたことで広まったそうです。
その人の過去の投稿を遡ると、「日常の不調でも1日量の3倍まで一気に飲んでいい」として、「激しい運動が3倍だから、私が勝手に決めた量」と書いている基準を、他の患者さんにも勧めていました。
でも、ガイドラインにある2倍、3倍の増量は、発熱や感染症などのシックデイを想定したものです。激しい運動での3倍量も、フルマラソンのような強い負荷を想定したものです。普段の疲労や、少し調子が悪い時にまで、日常的に3倍量を一気に飲んでいいという話ではありません。
この解釈が一部の患者さんの間で広まり、日常的な追加服用が標準的な管理法のように受け取られてしまった時期がありました。
処方量では足りなくなり、主治医に内緒で海外からステロイドを個人輸入して増量していた人もいました。過剰投与から抜け出せなくなり、糖尿病になって病状を悪化させてしまった人も少なくありません。
飲めば飲むほど、状態が悪くなっていく。
そんな悪循環が、実際に起きていました。
必要な治療は人によって違う
もちろん、個別の病状や生活環境によって、日常的な調整が必要な人もいます。その人が自分の治療として行うことまで、他人が口を出す話ではありません。
でも、「その人に必要な治療」と「誰にでも勧めていい管理法」は別です。
問題なのは、自分には必要だった、自分は楽になったという理由で、それを正しい方法として他の患者さんにも勧めてしまうことです。
副腎皮質機能低下症は、同じ診断名でも、原因も、自発コルチゾールの残り方も、必要な補充量も違います。自発機能が残っている人も多く、中には少しずつ回復していく人もいます。そんな人にまで日常的な追加服用を勧めるのは、残っている自発機能を抑え、本来なら回復できたかもしれない可能性を潰してしまうことにもなりかねません。
そして、その情報を信じて病状が悪化しても、勧めた人が責任を取ってくれるわけではありません。
もし、日常的な「追いコートリル」が、すべての患者さんに必要で安全な管理法なら、ガイドラインにも書かれているはずです。でも、そうはなっていません。
トラップに惑わされないために
「追いコートリル」という甘い言葉は、体調が優れず不安なときほど魅力的な解決策に見えてしまいます。これからもネット上のトラップとして存在し続けるでしょう。
でも、今は「追いコートリル」に疑問を持ち、そのリスクを理解できる人も増えました。それでも、この考え方を盲信している人は残っているので、新しく診断された人を引き込むような情報も、これから先ずっとネット上に残り続けると思います。
だから、私が頭の片隅に置いているのは、
「足りない時は迷わず足す。でも、普段は必要最小限で。」
ということです。
コートリルは、必要な時に正しく使えば命を守ってくれる薬です。
でも、気軽に足し続けていい薬ではありません。
診断されたばかりの人が、「追いコートリル」という気楽な言葉に流されて、過剰投与から戻れなくならないように。
そのトラップにはまる人が一人でも減るように、この情報を残しておこうと思いました。
補充療法の考え方
コートリルをただ「足す・減らす」だけで考えるのではなく、体の状態や生活の負荷、回復の流れを見ながら、補充療法をどう理解していくかをまとめています。
読んでくださった方が、自分なりの工夫を見つけるヒントになればうれしいです。
医療に関する判断を行う際は、必ず医師にご相談ください。