副腎皮質機能低下症の患者さんから、「日常的に追いコートリルを続けていたら、だんだん効かなくなった」「以前よりコートリルの持ちが悪くなった」という相談を受けることがあります。
「前は1錠足せば効いたのに、今は2錠必要になった」「4錠飲んでも効かない気がする」「量がどんどん増えて、減らせなくなった」「適正量まで戻せたけれど、以前より持ちが悪いまま」こうした声を目にするうちに、コートリルを必要以上に多く飲む状態が長く続くと、体の中では何が起きるのだろうと疑問を持つようになりました。
そこで、グルココルチコイド受容体(GR)について書かれたレビューを読んでみました。
コートリルに含まれるヒドロコルチゾンは、細胞の中にある受容体と結びつくことで働きます。コートリルを「鍵」にたとえるなら、受容体は「鍵穴」です。血液の中にコートリルがたくさんあっても、受け止める鍵穴が少なかったり、うまく働けない状態になっていたりすれば、十分な効果が出ないことがあります。
コートリルのようなステロイドが体の中で多い状態が長く続くと、細胞が受容体を減らす方向へ働くことが、グルココルチコイド治療を扱ったレビューで紹介されています(=参考)。受容体が減る仕組みは、ひとつではありません。受容体を作るための設計図であるmRNAを減らしたり、すでに作られた受容体を分解したりする仕組みが重なり、細胞の中の受容体が少なくなっていきます(=参考)。
受容体が減れば、同じ量のコートリルが血液中にあっても、それを受け止められる鍵穴は少なくなります。
レビューでは、このように受容体が減ることが、あとからステロイドが効きにくくなる原因のひとつになると説明されていました。
コルチゾールとの関係
別の研究では、クッシング症候群のようにコルチゾールが多い状態では、受容体がコルチゾールを受け取りにくくなっていました(=参考)。反対に、慢性的にコルチゾールが少ない状態では、受容体の数が増えていました。研究者は、このような変化を、長く続くホルモン環境に体が適応しようとする反応ではないかと考えています。
また、慢性的な副腎皮質機能低下症で補充療法を受けている患者さんでは、受容体を作るための設計図(GRα mRNA)が健常者より増えていました(=参考)。一方で、薬を使って一時的にコルチゾールを下げただけでは、この変化はみられませんでした。
これが実際にコートリルの効きやすさにどの程度影響するのかは、まだ分かっていません。ただ、コートリルの効き方は、飲む量だけで決まるのではなく、受け取る側も長期的なホルモン環境に応じて変化する可能性があるという事のようです。
現在、GRは人によって違う「ステロイドの効きやすさ」を知る手がかりとして研究されています(=参考)。将来、その違いが分かるようになれば、一人ひとりに合った補充量や治療法を選ぶ助けになることが期待されています。
量が増え続ける悪循環
日常的に「追いコートリル」を続けている方のなかには、最初は「少し足せば元気になる」という感覚だったのが、少しずつ必要な量が増えていったという方がいます。やがて体調を崩す回数も増え、口からまとまった量を飲んでも十分に改善しなくなり、病院で点滴を受けることが増えていく。なかには、その点滴まで以前より効きにくく感じるという体験談もありました。
このような経過をたどる方の多くは、現在も日常的に必要量を大きく上回る補充を続けているか、過去にそのような時期を経験しています。主治医と相談しながら適正量まで戻しても、「以前よりコートリルの持ちが悪い」と感じたままの方もいらっしゃいます。
血液中のヒドロコルチゾンは、服用してから数時間で減っていきます。けれど、もし受容体の量やGRの働きに変化が起きていた場合、薬の量を戻したからといって、体の状態まで同じ速さで元に戻るとは限らず、以前と同じ効き方に感じられない人がいることも、体の仕組みとしてはあり得ると思います。
調子が戻らない理由
実はこの「戻したのに、しばらく本調子に感じない」という経験には、名前がついています。グルココルチコイド離脱症候群(Glucocorticoid Withdrawal Syndrome:GWS)と呼ばれるもので、長く続いた過剰なグルココルチコイド曝露を減らしたときに、高い確率で起こることが分かっています。手術でクッシング症候群が治った患者さんを対象にした研究では40〜66%がこのGWSを経験しており、ステロイドを長く使っていた人が減量を試みた場合には10〜80%と、さらに幅広い報告があります。
症状は、倦怠感、筋肉痛や関節痛、脱力感、睡眠の乱れ、気分の変化など、副腎不全の症状ととてもよく似ています。しかも症状が続く期間は数週間から数年と、人によって大きく違うことも分かっています。
このレビューが指摘しているもうひとつの重要な点は、GWSの症状が「もっと量が足りないのでは」と誤解されやすく、結果的に必要以上の補充を続けてしまう一因になっているということです。適正量に戻したあとの不調は、量が足りないサインとは限らず、体がまだ以前の高い量に適応したままである名残かもしれません。
コートリルが効きにくくなる理由は、ひとつではないと思います。自発コルチゾールの低下、消化管からの吸収、基礎疾患や体調の変化など、複数の要因が重なっている可能性があります。ただ、慢性的にステロイドが多い状態が続くと、GRが減少し、薬に反応しにくくなる仕組みは知られているので、まったく無関係とも言い切れないと思いました。
いつの間にか量が増え続けている場合は、「効かないから、もっと飲む」を繰り返すのではなく、なぜ追加が必要になっているのか、1日の合計量が適正な範囲を超えていないかを、主治医と一緒に見直す必要があると思います。
健康な人のようにコルチゾールを自由に作れない私たちにとって、コートリルの効きが悪くなってしまうのは死活問題です。いざという時に頼る薬が、いざという時に効かなければ、本当に副腎クリーゼになった時に命を守ることができません。必要な時には迷わず補充する。そのうえで、普段から必要量を大きく上回る状態を続けない。その意識には、大きな意味があると思っています。
参考
Acquired Glucocorticoid Resistance Due to Homologous Glucocorticoid Receptor Downregulation: A Modern Look at an Age-Old Problem
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8533966/
Expression of the Human Glucocorticoid Receptor Splice Variants α, β, and P in Peripheral Blood Mononuclear Leukocytes in Healthy Controls and in Patients with Hyper- and Hypocortisolism
https://doi.org/10.1210/jc.2005-1042
The Glucocorticoid Receptor: Isoforms, Functions, and Contribution to Glucocorticoid Sensitivity
https://doi.org/10.1210/endrev/bnae008
Snyder CN, Frontera ED, Meng J, Wallace BI, Spencer-Segal JL. Potential mechanisms of the glucocorticoid withdrawal syndrome. Eur J Endocrinol. 2026;194(4):R67-R81.
https://doi.org/10.1093/ejendo/lvag062