ストレスドーズの考え方 必読
補充療法を始めた頃、「シックデイのときは、いつもの2〜3倍に増やしてください」と説明を受けました。その理由がずっと気になっていて、最近になって関連する論文を読んでみました。
血液の中を流れているコルチゾールは、その多くが単独でふわふわ漂っているわけではないそうです。CBG(コルチゾール結合グロブリン)という運び役のタンパク質にくっついた状態で、血液の中を移動しています。必要なときにCBGから離れ、遊離コルチゾールになって組織で働きます。
炎症が起きている場所では
炎症が起きている場所では、この待機状態を崩す仕組みが働くそうです。好中球という白血球の一種が、炎症部位でエラスターゼという酵素を放出します。このエラスターゼがCBGを切ると、その場でコルチゾールを放出します※1。2020年の研究では、熱が加わることや、体が酸性に傾くことでも、エラスターゼによる切断とは別の仕組みで、CBGからコルチゾールが放出されやすくなると報告されていました※2。
炎症が起きている場所で、必要なコルチゾールを使いやすくする。
CBGには、ただ血液の中を運ぶだけではなく、そんな役割もあるようです。
シックデイの「2〜3倍」
感染症や発熱などの強いストレスがかかると、健康な人の体ではコルチゾールの分泌量が増えます。副腎皮質機能低下症では、その増加を自分の体だけではまかなえないため、シックデイにはヒドロコルチゾンを2〜3倍に増やします。増量が必要になる大きな理由は、病気と闘う体が、普段より多くのコルチゾールを必要としているからです。そのうえで、炎症や発熱がある体内では、CBGからコルチゾールを放出しやすくする仕組みも働いています。
ストレスドーズは単に血中の濃度を上げるだけではなく、必要量が増えている体にコルチゾールを届けるためのもの。体は必要な量を増やし、必要な場所で使いやすくする仕組みも働いているので、その不足している分を補うイメージです。
日常の負荷の場合
同じような高容量を、炎症も発熱もない日常のちょっとした負荷に足した場合はどうなるのでしょうか。炎症部位でCBGが切断されるような仕組みが、同じように強く働いているとは限りません。補充量を増やせば、遊離コルチゾールも増えますが、それを必要としている炎症部位がないぶん、体全体に均等に広がるだけになります。
炎症や発熱がなくてもコルチゾールが相対的に足りなくなることはありますが、私の場合は、今くらいの状態であれば、2.5mgほどの少量でも体調が落ち着くことが多く、状態が悪かった時期でも、まずは5mgから試してみて、それでも足りなければ体の反応を見ながら、少しずつ量を足していました。(個人差があるので、先生に相談してね)
自然な分泌のカーブをイメージしながら、足りなそうな分だけを足して補正する。
私の感覚としては、それに近い感じで考えていました。
クリーゼになりそうなとき
もうひとつ、この線の外側に置いておきたい場面があります。副腎クリーゼに向かっているときです。このときは、繊細さより速さが優先されます。重い感染症や循環不全が起きている体では、血圧や血糖を維持し、血管をカテコールアミンに反応させるために、十分なコルチゾールが必要です。
副腎クリーゼの治療では、通常の補充量を大きく超えるヒドロコルチゾンを静脈から投与します。高い濃度になると、CBGに結合できる量には限界があるため、遊離コルチゾールの割合が大きく増えます。コルチゾールはアルブミンにも結合しますが、遊離した分は全身の組織へ届きます※3。
血圧を保てず、血管も十分に反応しなくなっている体へ、まず必要な量を一気に入れて立て直す。
イメージとしては、ジャバジャバ入れて、とにかく死なせない。
私はそんな感覚で理解しています。
私が思うこと
こうして並べてみると、「足す」という同じ行動でも、背景にある状況はまったく違います。
- 日常の不調では、何が不足の原因なのかを見ながら、必要な量を細かく補正する
- シックデイでは、体全体のコルチゾール需要が増えるため、決められたルールに沿って増量する
- クリーゼが疑われる場面では、普段の慎重な微調整ではなく、命を守る量を速やかに入れる
シックデイの2〜3倍量は、日常のなんとなくの不調にそのまま当てはめるためのルールではなく、逆にクリーゼが疑われる場面で、普段のように少量ずつ様子を見ていたら危険です。同じ薬を同じように「足す」ように見えても、目的も、必要な量も、急ぐ度合いも違います。
今の自分がどの場面にいるのか。
その違いを知っておくことが、補充量を考えるうえで大切だと感じています。
出典
1. Corticosteroid-binding globulin: acute and chronic inflammation
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/17446651.2017.1332991
2. Pyrexia and acidosis act independently of neutrophil elastase reactive center loop cleavage to effect cortisol release from corticosteroid-binding globulin
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/pro.3982
3. Pharmacokinetic Modeling of Hydrocortisone by Including Protein Binding to Corticosteroid-Binding Globulin
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9231005/
※この記事で紹介している文献や論文は、情報が乏しいこの病気において、改善の糸口を探るために部分的に参考にしたものです。あくまで個人の体調管理のヒントとして活用した記録なので、医学的な普遍性や効果を保証するものではないことをご理解ください。
補充療法の考え方
コートリルをただ「足す・減らす」だけで考えるのではなく、体の状態や生活の負荷、回復の流れを見ながら、補充療法をどう理解していくかをまとめています。
読んでくださった方が、自分なりの工夫を見つけるヒントになればうれしいです。
医療に関する判断を行う際は、必ず医師にご相談ください。