副腎皮質機能低下症の補充療法は、思っている以上に完璧ではないことが研究からわかっています。2026年に発表された研究では、原発性副腎不全の患者さんの血中コルチゾールが正常範囲におさまっていた時間は35%未満で、1日の25%以上の時間は、極端に高いか極端に低いか、どちらかの状態にあったと報告されています(=参考)。
追いコートリルの限界
でも、足りない時間があるからといって、不調を感じるたびに「追いコートリル」をしながら暮らすのは、現実的ではありません。
コートリルは2.5mg足したとしても、血中コルチゾールが2.5μg/dLだけ上がるわけではない(=参考)ので、「少し足りないから、少しだけ足す」という細かい微調整は、この薬の性質上、そもそもできません。
服用後の血中濃度は、吸収の速さや体格、服用した時間、直前に飲んだ分、自発コルチゾール、コルチゾール結合グロブリンなどの影響を受けます。少量を足したつもりでも、短時間に大きなピークをつくり、必要量を超えてしまうことがあることもわかっています。
足しすぎのリスク
過剰投与のリスクにまとめた通り、慢性的にグルココルチコイドが多い状態が続くと、体はその刺激に適応しようとして、グルココルチコイド受容体の働きを変化させたり、感受性を低下させたりすることがあります。過剰な曝露が繰り返されることで、以前と同じ量では効きにくく感じ、また追加したくなる。そんな悪循環に入る可能性があります(=参考)。
実際に追いコートリルを続けてクッシング様の症状が出るまで増量していき、増やせば増やすほど効きにくくなって、さらに量が増えていった人たちも実際に何人も見てきました。糖尿病や骨粗鬆症などの治らない合併症になってしまった人もいらっしゃいます。
負荷と必要量
先天性副腎過形成(CAH)を対象にした研究では、平均2年半の観察期間中、約20%の患者さんが一度もストレスドーズを使わずに生活していました。患者さんの多くは、コートリルを頻繁に増量しなくても暮らして行けるように読み取れます。
イギリスの内分泌学会誌に掲載された記事でも、現在のシックデイルールについて「副腎クリーゼの発生率を減らすことが証明されていない」と指摘されています。同じ手術を受けても、術後のコルチゾール値は272〜1066nmol/Lと患者によって大きく違っていて、「一律の増量がすべての患者に適切とは限らない」とも書かれていました。
これは、副腎皮質機能低下症の患者さんが、自己判断でシックデイの増量をしなくてよいという意味ではありません。発熱、感染、嘔吐、下痢、外傷、手術など、増量が必要な場面では迷わず対応する。それは今も変わらない大切な原則です。
ただ、あらゆる負荷に対して、全員が同じように2倍、3倍のコルチゾールを必要とするとは限らないことがわかってきたという事のようです。なので欧米では、シックデイ・ルールでさえ、「とりあえず増量」という従来の慣習を見直し、過剰投与の弊害を防ぎながら、必要最低限の介入で対応できるように、エビデンスに基づいて組み立て直す必要があるという議論が始まっています。
日常の軽い「負荷」に対して頻繁に2倍、3倍へ増量することは、かえって害になる可能性も指摘されています。こうした研究を追っていくと、医療者と決めた計画とは別に、日常の不調をすべてコルチゾール不足と判断して「追いコートリル」を続ける考え方は、やはり持続可能ではありません。
少量から始める
2016年の日本の総説にも、「副腎不全症に対する現在のHC 15〜20mg/日の標準的補充量でさえ、やや過剰補充の可能性がある」と書かれています。
2023年に改訂された国内のガイドライン(間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版)でも、ACTH分泌低下症の治療は少量(ヒドロコルチゾンとして5〜10mg/日)から開始し、初期投与量で症状の改善がなく、副作用がなければ段階的に増量するという方針に変わっています。
増やさない暮らし方
ここまでを合わせると、日常的にコートリルを追加するという選択肢は、この薬の性質からしてそもそも成立しないという結論になります。
ただ、「足さない」といっても、コルチゾールの分布を整える方法が何もないわけではありません。総量を増やす代わりに、同じ量をどう配分するかというタイミングの工夫で過ごすことが推奨されています。
薬以外にできること
それ以外にも、できることはたくさんありました。
まずは、日常生活の中にある負荷を見直すこと。無理な予定を重ねない、睡眠不足を避ける、脱水や低血糖を起こさないなど、避けられるシックデイをなるべく予防していくことなどです。
栄養状態を整えることも欠かせません。コルチゾールだけを補っていても、体を動かすためのエネルギーや、筋肉を維持するための栄養が足りなければ、体は少しずつ弱っていきます。
安静や省エネだけを続けるのではなく、今の体力に合わせて少しずつ体を動かし、筋力や心肺機能を取り戻していく。同じ活動を、より小さな負荷でこなせる体をつくることで、コートリルを増やさなくてもできる範囲を広げていく工夫ができます。
骨粗鬆症や糖代謝異常、心血管疾患などの合併症を予防し、これ以上、病気を増やさないことも大切です。健康状態が悪くなれば、日常生活そのものが大きな負荷になり、必要になるコルチゾールも増えていきます。
なるべくリスクが少ないとされている補充量で安定して過ごせる体と環境を整えていく。
それが、この病気と長く付き合っていくための、現実的な方法のひとつだと思っています。
出典
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https://academic.oup.com/ejendo/article/195/Supplement_1/lvag096.250/8754601
Potential mechanisms of the glucocorticoid withdrawal syndrome. Eur J Endocrinol. 2026;194(4):R67.
https://academic.oup.com/ejendo/article/194/4/R67/8655092
Frequency of stress dosing and adrenal crisis in paediatric and adult patients with congenital adrenal hyperplasia: a prospective study
https://academic.oup.com/ejendo/article/190/4/275/7641924
Htut Z, Martin N, Meeran K. Adrenal insufficiency and stress: we need evidence for sick day rules. The Endocrinologist. 2024;(153).
https://www.endocrinology.org/endocrinologist/153-autumn-24/features/adrenal-insufficiency-and-stress-we-need-evidence-for-sick-day-rules/
下垂体機能の評価:ホルモン基礎値の評価から内分泌負荷試験の実際と注意点(J Pract Diabetes Endocrinol. 2025; 3(6): 0088.)
https://doi.org/10.57554/2025-0088
Hindmarsh, Peter C.; Geertsma, Kathy. Replacement Therapies in Adrenal Insufficiency. Elsevier Science. Kindle.
https://amzn.asia/d/hOt2joJ