ストレスドーズの現実 必読
副腎皮質機能低下症の一部の日本のコミュニティでは、「日常的にストレスドーズは必須」「すぐに追いコートリルしないと危険」という前提で語られることがありました。
でも、今回あらためて論文(市民公開講座で共有されていたもの)を読み込んでみて、新しい発見がありました。
今回参照したのは、原発性(先天性副腎過形成・CAH)の成人患者を対象に、ストレスドーズの実態を前向きに調べた研究です。成人CAH患者145人のうち、「Habitual Stress Dosing(習慣的ストレスドーズ)」に該当した29人(約20%)は、最初から解析の対象外として切り分けられていました。
「習慣的」とみなされたのは、観察期間中の平均で月2回以上ストレスドーズをしている人、または1回のストレスドーズが14日以上続いた人です。つまりこの研究では、日常的に増量することが前提になっている人を、あらかじめ「別の群」として扱っていたことになります。
残る116人(約80%)を、平均約2年半にわたって観察した結果は、次のようなものでした。
- 約22%(26人)は、観察期間中、ストレスドーズを一度も使わずに生活していた
- 約78%(90人)は、習慣的なストレスドーズには該当しない範囲で、必要に応じてストレスドーズを行っていた
成人で100人・年あたり195.4回、小児で100人・年あたり169.7回というストレスドーズの実際の頻度も記録されていました。患者さん全体で平均すると、1人あたり年に1〜2回ほどストレスドーズが行われている、という目安になります。
つまり「習慣的に追いコートリルが必要」という考え方は、少なくともこの研究の集団では、全体の2割程度の人にあてはまる話でした。
習慣的な追加投与をしている人は確かにいます。でも、それが多数派というわけではありませんでした。このことを知らずに過ごしていると、本来は「非常時の対応」として設計されているストレスドーズが、いつのまにか日常のコントロール手段として使われるようになってしまうこともあるかもしれません。
ここで大事なのは、この数字がCAH(先天性副腎過形成)というひとつの原因グループから得られたデータだということです。
原因によって、残せるものが違う
今回参照した研究の対象はCAHで、これは生まれつきの酵素の欠損が原因です。副腎という臓器そのものが、コルチゾールをうまく作れる構造になっていないケースが多く、自発機能を「残す」という発想自体がむずかしい人が一定数含まれています。
副腎皮質機能低下症という病気の原因は、実はとても幅が広く、下垂体や副腎そのものの障害(腫瘍や手術など)が原因の人もいれば、原因がはっきりしない人、吸入ステロイドや免疫チェックポイント阻害薬(一部の抗がん剤)の影響でHPA軸が抑えられて発症する人もいます。
続発性や薬剤性の副腎不全は、副腎そのものは壊れていないことが多く、抑えられているHPA軸の指令系統さえ回復すれば、自発機能が戻る可能性があります。このグループにとって、外からの補充を必要以上に続けることは、本来なら取り戻せたはずの機能を、眠らせ続けてしまうことにつながります。
今回の「2割」という数字には、CAHのように、自発を残すという発想自体がむずかしい人たちも含まれています。副腎そのものが壊れていない続発性や薬剤性の患者さんだけで見れば、日常的に増量することが前提になっている人の割合は、もっと低いのではないかと思います。
まとめ
この病気はすべての人が同じ条件ではありません。原発性か続発性か、自発コルチゾールがどのくらい残っているか、生活環境や活動量、ほかの病気の有無によっても、必要な補充量や調整の仕方は変わってきます。
自分に合ったコートリルの量や飲み方、生活の整え方を見つけていくことで、シックデイ以外は追加せずに過ごせる可能性がある人も、少なくないのではないかと感じています。
参考
Frequency of stress dosing and adrenal crisis in paediatric and adult patients with congenital adrenal hyperplasia: a prospective study
https://academic.oup.com/ejendo/article/190/4/275/7641924
※この記事で紹介している文献や論文は、情報が乏しいこの病気において、改善の糸口を探るために部分的に参考にしたものです。あくまで個人の体調管理のヒントとして活用した記録なので、医学的な普遍性や効果を保証するものではないことをご理解ください。
補充療法の考え方
コートリルをただ「足す・減らす」だけで考えるのではなく、体の状態や生活の負荷、回復の流れを見ながら、補充療法をどう理解していくかをまとめています。
読んでくださった方が、自分なりの工夫を見つけるヒントになればうれしいです。
医療に関する判断を行う際は、必ず医師にご相談ください。