Note第14回市民公開講座 国内
2025年12月14日(日)10時から、オンラインで行われた第14回市民公開講座(主催:副腎ホルモン産生異常に関する調査研究班)を視聴しました。今回の講座では、医学生教育のあり方から、21水酸化酵素欠損症の治療と日常管理まで、臨床現場に根ざした話が共有されていました。その中から、コルチゾール補充療法に関する部分を中心にまとめてみました。
※本講座で紹介されていた補充療法の内容は、原発性・自発なし・フル補充を想定したものなので、続発性の補充療法と比べると、やや手厚めに感じられる部分があります。
医学生を育てるということ
1990年代のアメリカでは、医学生の段階から診療に積極的に参加する仕組みが整えられていたそうです。単に講義を受けるだけでなく、診療チームの一員として患者さんに関わりながら学ぶことが、よい医師を育てるうえで重要だという考え方だそうです。日本でも、この考え方を取り入れる動きが進み、令和5年4月の法改正によって、医学生も一定の条件のもとで医業に関わることが可能になったそうです。
21水酸化酵素欠損症について
21水酸化酵素欠損症では、アルドステロン不足による脱水とコルチゾール不足による生命維持への影響が起こります。コルチゾールが不足すると、副腎アンドロゲンが過剰になりやすく、微妙に足りない場合は軽い不調として現れ、著しく不足すると副腎クリーゼに至ります。
コルチゾール補充療法の考え方
コルチゾールは一定ではなく、朝に高く夕方に向かって下がり、さらにストレスによって上下するホルモンです。コートリルを内服すると、血中濃度は山と谷を繰り返す形になり、理想より高い「山」の時間帯が長くなると、肥満・脂質異常・糖尿病・骨粗鬆症といった副作用が出やすくなります。一方で、不足しても体調に影響が出るため、調整は簡単ではないことが説明されていました。
※資料でも似たような図が共有されていました
コートリルの代わりにプレドニンを1日2回で使う方法(欧米でも近年話題)もありますが、デキサメタゾンは第一選択ではなく、使用は限定的とされていました。外来では、補充量が多すぎないかを確認することが重視され、プラスにもマイナスにも振れすぎない調整の難しさが示されていました。
合併症と長期管理
年齢が上がると、心血管イベントや糖尿病、血圧上昇といった合併症のリスクが高まります。これらはコートリルの過量とも関連していることが分かっているものの、少なくしすぎないようにコントロールすることが難しい、と説明されていました。副作用のリスクをゼロにするのは現実的には難しく、量・タイミング・分割の工夫で最小限に抑えることを目指しながら、「必要最低限の適量」を探っていく、という考え方が共有されていました。
合併症を減らすため、大人になると容量を少しずつ見直して副作用を予防する工夫も行われているそうです。一方で、実際には多くの患者さんが、やや多めの補充量になっていることも共有されていました。長い年月の中で合併症が出てくる可能性はあるものの、まずは不足によって命に関わる事態を避けることを優先し、安全側に寄せた調整が選ばれている、という説明でした。
シックデイ対応
きっかけとして多いのは、胃腸炎や感染症です。国内の21水酸化酵素欠損症のガイドラインでは、軽度のストレスであれば維持量で対応し、発熱がある場合は3〜4倍量、高熱の場合には点滴で対応すると定義されています。
一方、海外のガイドラインではドイツの例が紹介されていて、本人の感覚を重視して2倍にしたり、夕方に追加したりと、比較的柔軟な対応が取られているそうです。軽微な外傷や、疲労がたまりやすい夕方のイベント、日常より活動量が多い場合には5〜10mgの増量、熱はなくても感染症や片頭痛がある場合には倍量にしたり、夕方に5〜10mg追加することもあるとのことでした。
シックデイのルールはそれぞれで、3〜4倍量までふやさずとも、症状に応じて1錠飲むこともあるという説明もありました。多くても少なくてもよくないため、自分に合った適量を見つけていくことが大切だとされていました。また、災害時に備えてコートリルは多めに持っておくことも勧められていました。
投与タイミング
コートリルを飲むタイミングが夕方以降になる場合は、寝る前に飲むようにしている、という方法についても話がありました。サーカディアンリズムを意識した投与として、日本でも自発がないケースのコントロールに採用されていることがわかりました。
新しい治療
徐放型ヒドロコルチゾンは、体調や精神面の安定が期待されると言われる一方で、劇的に改善するわけではなく、過度な期待はできないとも説明されていました。日本では臨床試験が止まっており、小児用顆粒製剤も採算面の問題から開発が進みにくい状況だそうです。国内ではコルチゾールポンプの採用も、かなり先の話とされていました。アメリカではCRH受容体をブロックする治療が進んでいるそうですが、このような新しい治療はシステムや採算面の関係で日本では導入できないことも多いそうです。
不調をどう見分けるか
よくわからない不調が出たときは、それがコルチゾール不足によるものか、そうではないのかを見分けることが重要とされていました。増やしたら症状が減るのか、コートリルが多すぎても不調になるので、逆に減らしたら症状がなくなるのかを確認し、量を変えても変わらない場合は、疲れやすさなど別の原因の可能性も考える必要があるそうです。コルチゾール補充療法を行っている患者さんの中には、不調が完全になくならない人も多い、という現実的な説明で締めくくられていました。
まとめ
全体を通して、「数値だけで判断しないこと」「患者の生活や感覚を含めて考えること」が一貫したテーマだったように思います。治療の正解は一つではなく、それぞれが自分の体と対話しながら、医療者と一緒に探していくものという前提をあらためて確認する機会になりました。
副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する情報は「Note」へ、補充療法のヒントは「Hint」へ、その他の情報は「Misc」へ、メッセージ経由でいただいた質問の一部は「FAQ」にまとめています。読んでくださった方が、自分なりの工夫を見つけるヒントになればうれしいです。
※体験をもとに整理した内容であり、医学的助言を目的としたものではありません。医療に関する判断を行う際は、必ず医師にご相談ください。
