Misc吸入薬と住環境 推奨

イギリスのロイター通信(Reuters)のレポート※1によると、吸入ステロイドが副腎不全を起こす確率は7%、経口薬を含む他の製剤では44%とされていて、吸入ステロイドの最低用量では2%、最高用量では22%が副腎不全を発症しているそうです。

日本の副腎皮質機能低下症の患者さんを見渡すと、喘息を併発している方が少なくないのも、こうした背景が影響しているのかもしれません。

欧米のコミュニティでは、吸入薬の種類や使用方法を見直すことで、副腎機能を回復させた患者さんが多くいらっしゃいます。そこで、欧米で実際にコルチゾール補充療法を断薬できたケースから、具体的な改善点をまとめてみました。

  • 吸入薬の断薬糖質制限食により喘息が改善して、吸入薬を使用しなくても良い状態になり、副腎機能が回復したケース。
  • 吸入薬の変更:吸入薬を完全に断つのは難しいが、オルベスコ(シクレソニド)に切り替えて、副腎機能が回復したケース。※2
  • 時間帯の考慮:使用する時間帯によって副腎抑制のリスクが異なるので、夜間の使用を控えて朝のみに変更して、抑制リスクを軽減できたケース。
シクレソニドの特性

シクレソニドはプロドラッグであり、吸入後に肺内で活性化されるため、全身への影響が少ないとされています。長期間使用しても、副腎機能への影響が他の吸入ステロイド薬と比較して低いことが特徴です。※3

資料

資料

[出典]吸入ステロイド喘息治療薬シクレソニド(ciclesonide:オルベスコ®インヘラー)の薬理学的特徴と臨床効果

フルチカゾンのリスク

フルチカゾンは高力価の吸入ステロイドなので、使用方法によって副腎機能を抑制するリスクがあります。また、CYP3A4阻害薬との併用により体内濃度が上昇し、副腎不全のリスクが高まることが報告されていますので、他の薬剤との相互作用にも注意して使用することが重要です。※4

喘息治療で併用されるプランルカスト(オノン)、抗ヒスタミン薬のロラタジン(クラリチン)、抗菌薬のクラリスロマイシン(クラリス・クラリシッド)などは、CYP3A4で代謝されるため、相互作用を引き起こす可能性があります。他の薬剤との相互作用の例を参考に、服用している全ての薬剤への注意が必要です。※5

強さの相対的な比較

吸入ステロイドの「強さ(抗炎症作用)」は、薬剤の種類と吸入量によって異なりますが、一般的には、「フルチカゾン ≈ モメタゾン > シクレソニド > ブデソニド」と言われているようです。

薬剤名 抗炎症作用の強さ 消失半減期
フルチカゾン 高い 14.4時間
モメタゾン 高い 5.8時間
シクレソニド 中程度 0.9時間
ブデソニド やや低い 2.3時間

[出典]吸入ステロイド薬の薬物動態特性 – 西藤小児科こどもの呼吸器アレルギークリニック

環境整備が重要

喘息は命に関わる疾患なので、強いステロイドを治療に使用している場合には、それ相応の理由があり、治療のステップダウン・吸入薬の断薬・変更を検討する際には、喘息が良好にコントロールされていることが前提となります。そのため、多くの方が、まずは低リスクで取り組める「糖質制限食」や「住環境の改善」などを試し、喘息症状をある程度安定させた上で、吸入薬の見直しを行っています。

住環境改善の具体例

カビや埃を避けるために、ラグ・カーペット・観葉植物を処分している方もいます。日本では、畳・こたつ・障子・襖・押入れ・座布団・クッション類にリスクがあり、エアコン・空気清浄機のフィルター・カーテン・ペットの飼育環境・湿度の管理・収納スペース(押入れやクローゼット)・靴箱・傘立てなどが見直しのポイントです。

ある欧米の患者さんの体験談では、住む場所を変え、ペットを友人に預けて別居することで喘息が緩和し、吸入薬を断薬、副腎皮質機能低下症を完治させた方もいらっしゃいました。その結果、無事に仕事に復帰し、収入も安定したことで、ペットとともにより良い環境で暮らしているそうです。

治療へのスタンス

健康であることは、安定した収入を得て豊かな暮らしを実現するための基盤です。たとえ病気によって一時的に仕事ができなくなったとしても、治療に専念し、回復することで再び健康を取り戻し、収入を得られるようになった事例は数多くあります。

原因不明やステロイドの使用歴がある副腎皮質機能低下症の多くは、体調を整えながら慎重に漸減し、断薬を進めることで、回復できる可能性があると言われています※6

そのため、欧米の患者さんの多くは、健康を取り戻すために糖質制限食をはじめとする食生活の見直しや生活習慣の改善に真剣に取り組んでいます。時には何かを犠牲にしてでも、回復のチャンスを逃さないことが、その人の人生における最善の選択になることもあるようです。

  1. Common asthma steroids linked to side effects in adrenal glands
  2. Inhaled corticosteroid related adrenal suppression detected by poor growth and reversed with ciclesonide
  3. シクレソニド(オルベスコ)– 呼吸器治療薬
  4. 喘息用吸入剤フルタイド(一般名フルチカゾン)は危険ページ内の「他の薬剤との相互作用にも注意を」の部分も重要です
  5. フルチカゾンによる急性副腎不全(医薬専門家向け情報)
    ページ内の「個体差は不可避、他剤との相互作用にも注意を」の部分も重要です
  6. Husebye ES, Pearce SH, Krone NP, Kampe O. Adrenal Insufficiency – Published: 13 Feb 2021

国内外の情報や論文・コントロール良好な方の体験談などから見つけた情報を集めています。副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する事は「Note」へ、体験談やヒントなどは「Misc」に記録しています。

※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解です。