Misc病気や痛みの併発がある場合
副腎皮質機能低下症の他にも、病気の併発(慢性的な痛みや疾患)がある場合の情報を元に、そのメカニズムと対策や注意点をまとめてみました。
2013年12月2日に掲載された「The Physiologic Effects of Pain on the Endocrine System」※1という論文には、激しい痛みは内分泌系に重大な影響を及ぼし、血清ホルモンに異常が生じる事から、維持量とは別でコルチゾールの追加が必要であることが示されていました。
激痛でHPA軸(視床下部ー下垂体ー副腎)の過覚醒が起こり、アドレナリン・コルチコトロピン・コルチゾール・プレグネノロンなどの血清ホルモン値が上昇し、正常なホルモン産生を維持できなくなり、一部のホルモンレベルが正常範囲以下に低下してしまうらしく、一部のホルモンは痛みのコントロールに非常に重要な事から、疼痛の増強や、治癒が遅れる可能性がある事が記載されていました。
2015年12月9日に掲載された「Hydrocortisone Dose Influences Pain, Depressive Symptoms and Perceived Health in Adrenal Insufficiency」※2という論文には、2つの異なる用量のコルチゾール補充療法で、HRQoL(健康関連の生活の質)に及ぼす影響を評価したところ、高用量のコルチゾール(0.4〜0.6mg/kg/day)を投与された患者は、うつ病の症状が有意に少なく、全身疲労や精神疲労が少なく、意欲や活力が増加し、身体機能や全身状態も改善し、高用量投与中は、全身症状や疼痛が少なかった事が報告されていました。
2022年にAdrenal Insufficiency Coalitionが発行している「Daily Management of Adrenal Insufficiency」※3にも、現在のガイドラインでは、コルチゾール不足の症状を軽減する最低用量のヒドロコルチゾンを使用する事が推奨されているものの、このアドバイスは、個々の患者に適切な用量を決定する際にQoLが十分に考慮されている場合にのみ当てはまる事や、2015年のランダム化対照試験の結果※2でも、服用量を増やすと患者の健康状態が改善されると示されている事が記載されていました。
病気の併発がある場合は特に、通常の投与の方法で健康な方の日内変動を再現する事が難しく、過剰や不足が発生する可能性がある事や、レム睡眠にも微量のコルチゾールが必要な事から、就寝前の追加が必要なケースがある事や、就寝前の少量の長時間作用型ステロイドが有効な事も記載されていました。
その他、受診日に自分の状態を的確に伝える為に、投与時間・投与量・血圧を記録する事も大切と記載されており、症状や血圧の異常があった期間や追加の有無を記録する事で、客観的な情報を主治医に的確に伝えられるだけではなく、記録して振り返る機会を作る事も大事な様です。
多ければ効く訳ではない
服用量の増加に伴うコルチゾールの曲線下面積や最大血清濃度は比例はしない事が研究※4から示されているので、高用量の単回投与で血中コルチゾール濃度が実質的に上昇することは無く、10mgを超える量を朝に服用する利点は無い事が記載されていました。
その他の一般的な情報と合わせると、慢性的な痛みや症状がある場合は、それらの症状をカバーできる量を算出し、単回投与が10mgを超えないように分割する事、睡眠の質の低下が起こらない服薬スケジュールを考慮する事や、コルチゾールの誘導薬と阻害薬(CYP450)だけではなく、鎮痛剤(オピオイド)からの副腎機能抑制も考慮して薬剤を選ぶ事に注意して、なるべく鎮痛剤だけに頼らず、痛みを緩和する食事法なども取り入れて「体調不良のドミノ倒し」(欧米ではthey wait for the next domino to fallと表現されていました)の状態を作らない事が、大事だと思いました。
- [出典]The Physiologic Effects of Pain on the Endocrine System – Published: 2 Dec 2013
- [出典]Hydrocortisone Dose Influences Pain, Depressive Symptoms and Perceived Health in Adrenal Insufficiency: A Randomized Controlled Trial – Published: 9 Dec 2015
- [出典]Adrenal Insufficiency Coalition Daily Management of Adrenal Insufficiency – 2022 Adrenal Insufficiency Coalition
- [出典]Effect of dose size on the pharmacokinetics of oral hydrocortisone suspension
国内外の情報や論文・コントロール良好な方の体験談などから見つけた情報を集めています。副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する事は「Note」へ、体験談やヒントなどは「Misc」に記録しています。
※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解です。