Hint「助ける」と「育てる」の境界線
副腎皮質機能低下症の負荷試験では、コルチゾールの頂値が18μg/dL以下だと、副腎の反応が十分ではないと判断され、「育てるより助ける」対応が必要になります。反対に、18μg/dL以上あれば反応性は保たれていると考えられるので、グレーゾーンの場合は「助けるより育てる」方向で様子を見ることが多いと思います。
補充療法の意味と限界
補充療法のコートリルは万能薬のように使ってはダメですし、コルチゾール補充療法で改善できるのは、あくまで「コルチゾール不足による症状」だけになります。コートリルを飲んで二次的にアレルギーや喘息の症状が落ち着くのは、コルチゾールが本来果たす「抗炎症・免疫調整」の働きを補っているためだと思います。
補充をしたからといって、自律神経まで整うわけではありませんし、逆に補充量が多い場合は自律神経が乱れやすくなることもあります。なので、補充を続けている場合でも、生活習慣を整えて体の土台をつくることが欠かせません。
反対に、生活を変えずに補充だけで何とかしようとすると、うまくいかないままコートリルの量が増えてしまうことがあります。そうなると、さらに不調が増えてしまい、コントロールがかえって複雑になることもありますね。実際に、コルチゾールの補充だけで完全に整っている人は、私は見たことがありません。
助けるサプリの落とし穴
DHEA、甘草、アシュワガンダなど、ホルモンに似た働きを持つサプリは、一時的にラクになることがあります。でも、これらはHPA軸を外から操作してしまうので、「自分の力で回す練習」がしづらくなったり、自発機能そのものを弱めてしまうことがあり、長い目で見ると、回復や安定の維持を難しくすることもあります。
欧米のコミュニティでは、回復期の人たちはこのリスクをよく理解しています。コートリルの使用も「緊急時だけ」にとどめ、コルチゾールに影響する成分やサプリは使わず、「助ける」より「育てる」方向を大事にしています。
生活習慣が支える「育てる」力
HPA軸を整えるためにできることはいくつか知られています。たとえば、規則正しい睡眠リズム、軽い運動(特に有酸素運動)、安定した食事の時間、そして安心できる環境を保つことなどです。これらは、脳のリズムや可塑性(変化する力)を整えるうえでとても大切とされています。
実際に、睡眠や運動などの生活リズムが、HPA軸の回復やストレス反応の安定に関係していることは、いくつかの研究でも示されています。私が診断を受けた頃に、医師や看護師の友人からも「運動と脳の可塑性」に関する文献をよく勧められました。
当時は歩くことも負荷になる病状だったので、少しずつ運動できるようになるまで本当に時間がかかりました。それでも、体の声を聞きながら無理せず続けていくうちに、少しずつ動ける時間が増えていきました。
木を見ず森を見る視点で
副腎機能を「回復」させる薬やサプリはありません。でも、生活リズムを整えながらリハビリを続け、少しずつ安定していった人は確かにいます。
一方で、体調がまだ不安定な人ほど、サプリや甘草入りの漢方を勧めてくることがありました。でも、それらは「育てる」よりも「助ける」方向の発想で、その時はラクに感じることがあっても、結局はコートリルを増やしているのと同じような状態になってしまうものでした。
その結果、「自分で回す力」を取り戻すチャンスを遠ざけてしまうこともあるので、私は「何かを足すよりも、まずは余計なものを減らして、自分の体のリズムを整える」方法を選びました。
回復を目指す人へ
副腎皮質機能低下症の人にとって、コートリルは「助ける」ための薬です。まだ自発機能が残っている場合や、回復の可能性がある場合は、「助ける」から「育てる」へ少しずつシフトしていく意識が大切なのかもしれません。また、診断がつかないグレーゾーンや、HPA軸の働きが弱っている人で、目指すのが「回復」であれば、補充やサプリで「助けすぎない」ことも必要なプロセスなのかもしれません。
十分に補充していると、下垂体が「もう作らなくていい」と判断してしまうため、ほんの少しだけ足りない状態で維持する方もいらっしゃいます。その過程を過ごしやすくする工夫が、欧米の「off the table」なんだと思います。
副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する情報は「Note」へ、参考になった情報は「Hint」へ、その他の情報は「Misc」へ、メッセージ経由でいただいた質問の一部は「FAQ」にまとめています。読んでくださった方が、自分なりの工夫を見つけるヒントになればうれしいです。
※体験をもとに整理した内容であり、医学的助言を目的としたものではありません。
