Hint外用ステロイドのリスク

副腎皮質機能低下症の治療をしていると、「経口ステロイドは注意」とよく言われますが、実は外用薬(塗り薬)でもHPA軸(視床下部ー下垂体ー副腎)が抑制されるリスクがあることをご存知でしょうか。今回、日本内分泌学会雑誌で紹介されていた症例を読んで、私自身の体験とも重なり、あらためて“塗る”という選択にも慎重さが必要だと感じました。

塗り薬の影響

紹介されていたのは、特発性心室細動の既往がある20代男性の症例です。この方は数年来、アトピー性皮膚炎に対して外用ステロイドを不定期に使用していました。ある日、食あたりのような症状と倦怠感が続いたあと、心臓発作を起こし救急搬送。ECMO(体外循環)導入を要するほどの重篤な状態となりました。

検査の結果、コルチゾールは1.93μg/dLと著しく低下。ACTH負荷試験でも反応は不十分で、医原性続発性副腎皮質機能低下症と診断され、ヒドロコルチゾン(HC)200mg/日の持続投与で回復しました。最終的には補充量を20mg/日まで減らし、無事に退院されました。

資料

塗り薬だから安全とは限らない

この症例のポイントは、全身ステロイド投与がなかったにもかかわらず、副腎機能に深刻な影響が出ていたという点です。報告では以下の点が強調されていました。

  • ステロイド外用薬でも、長期使用・不定期使用はHPA軸を抑制しうる
  • 皮膚バリアが壊れていると吸収率が高まり、血中に移行しやすくなる
  • 不定期な使用や急な中断が、体調の急変や深刻な副腎不全を引き起こすリスクになる

さらに、報告では「ステロイド薬の中断や使用が急性副腎不全の誘因となり、致死的不整脈の一因にもなり得る」とも記載されており、特に既往のある方や回復中の方にとっては慎重な管理が求められます。

私自身の経験

実は私も、皮膚科で処方された1週間だけのステロイド外用薬を使った後に、明らかに体調が悪化し、採血でコルチゾールの低下が見られたことがありました。「塗っただけで?」と思われるかもしれませんが、すでにHPA軸が弱っていたり、回復途中だった私の体には、予想以上の負荷になっていたのだと思います。

回復中は注意

海外では、副腎不全から回復して0ミリになった人が、外用薬や注射などをきっかけに再燃してしまった、という報告もよく見かけます。とくに「回復中」「量を減らしている途中」の時期は、ほんの少しの負荷がHPA軸全体に影響することがあるので、やはり慎重さが必要なのだと感じます。

まとめ

外用薬は一見“局所的”に見えても、体の内側、特にHPA軸に影響を及ぼすことがあります。副腎機能が回復途中にある方や、もともとHPA軸の働きが不安定な方にとっては「塗る」という行為も慎重に見直す価値があるかもしれません。

また、どうしてもステロイドを使わなければならないのかを事前に話し合うこと、処方された薬はすべて確認すること、ステロイドの量や種類も把握しておくことが大切だと感じています。

なお、副腎機能に影響を与える薬はステロイドだけではありません。処方された薬はすべて、自分でも一度確認してみる習慣を持つと安心です。医師や薬剤師も必ずしもHPA軸への影響を把握しているとは限らないため、自衛的な視点もとても大切だと感じています。

[出典]日本内分泌学会雑誌(2024年 第100巻)特発性心室細動による心停止を契機に外因性ステロイドによる続発性副腎不全を診断し得た1例

2025.5.19 掲載

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