
第96話「シックデイ」
私は今、副腎皮質機能低下症の回復期にあり、完全ではないものの、日常生活はある程度こなせるまでに回復しています。ただ、この時期ならではの難しさもあります。たとえば、基礎値は改善してきても、負荷がかかったときのピーク値は健常な人ほど出せません。なので、シックデイのように強いストレスがかかると、自力だけでは対応しきれず、コートリルが必要になることもあります。
シックデイの投与量
シックデイの対応方法は定義がありますが、たとえば「2倍量」は「ベースがゼロの人」を前提にしているらしく、私のような頓服や軽症者向けに定められた明確なルールはありません。
突然のシックデイ
そんな中、4月ごろから仕事が忙しくて無理が重なってしまい、大きな任務を終えたそのすぐ後に、風邪よりも強めの感染症にかかってしまいました。コロナ・インフルは陰性で、当初は熱も出なかったので、コートリルは使わず様子を見ていました。「自力で乗り切れたら」と思っていた部分もありました。
ところが、なかなか回復できず、少しずつ食欲が落ちていきました。一時的に起き上がれる時間もありましたが、夕方になると高熱が出て、体調の悪さと寒気でうなされるように眠る日が続きました。そんなタイミングで、2.5mgの頓服をしていましたが、体調や炎症はさらに悪化していきました。
翌朝には高熱で動けなくなり、食事も水分も思うように取れなくなってしまいました。あまりにも調子が悪く、内分泌の専門医であるS先生に連絡すると、「こういう時は、まず10mg飲んでみて。1日30mgまでは飲んで大丈夫」と指示をいただきました。言われたとおりに服用してみましたが、それだけでは持ち直す感じはなく、自分ではどうにもできなかったため、S先生の外来を受診することにしました。
※コートリル10mg・夕方の採血・シックデイ
コートリルを10mg服用した状態での採血では、コルチゾールの値は25.5μg/dLになっていて、「その時点での負荷に対するカバーはできているだろう」とのことでした。ただ、ミネラルバランスが崩れていて脱水も見られたため、念のため入院してケアしていただくことになりました。
コートリルと輸液の効果もあってか、体調は嘘のように楽になり、高熱も出なくなり、ようやく「健康な人が感染症にかかったとき」くらいの体感まで回復できました。おそらく、あの高熱や炎症は、コルチゾール不足が原因だったのかもしれません。
コートリルの利用能
「コートリル10mgを飲めば、コルチゾールが10μg/dLになる」というわけではない──という話(参考)は、わりと知られていることかと思います。
これは推測ですが、負荷がかかった時の反応があまり出せないと仮定して、今回の夕方の採血結果の大半がコートリル由来だとしたら、私は10mgの服用でコルチゾールが25μg/dL前後まで上がる“利用能”があるという見方もできるのかもしれません。
これは単純計算になりますが、1.25mgは約3μg/dL、2.5mgは約6μg/dL、5mgは約12μg/dL──言われてみれば、確かにそのくらいの体感だったかもしれません。
実際には、空腹時か食後か・胃腸の吸収状態・ストレスや炎症の有無・他の薬との飲み合わせ・その時点での肝代謝能力・血中タンパク濃度など、さまざまな要因によって変動するものですが、それでも日常は1.25mgで十分に効果を感じることがあるのは、その辻褄も合っていると思いました。
炎症とコルチゾール
これはあくまで個人的な体感ですが、コルチゾールが足りないと、炎症をうまく抑えられない感じがあって、通常の薬だけでは太刀打ちできないことがあります。そんな時でもコートリルを一緒に入れると、嘘のように鎮静することがあって、食物アレルギーのときも同じく、抗ヒスタミンとコートリルをセットで使うことが有効です。
今回の炎症もまさにそんな感じで、まるで何事もなかったかのように落ち着いて、一般的な風邪レベルまで引き戻せました。
今後の対応ステップ
頓服で体調維持できるようになっても、こうしたシックデイの見極めは簡単ではありません。今回の経験を通して、強めの負荷や炎症には、迷わずシックデイ対応をすること。場合によっては輸液も必要になることも理解できたので、そんな“経験知”が新たに加わりました。
こうやって、一度でも経験したことはマニュアル化して、自分用の対処フローとして落とし込んでおくことで、次に同じ状況が来たときに「迷わず・無駄なく・安全に」動けるようになります。
現在の状況
入院時のACTHが低かった理由が、服薬の影響なのか、もともと低かったのかを確認したくて、退院前日に安静採血でACTHとコルチゾールを調べていただきました。その結果、コルチゾールは13.5μg/dL、ACTHは38.1pg/mLで、今までで一番良い数値でした。
※コートリル抜き・安静・6時半の採血・睡眠⚪︎
これくらいの基礎値があっても、強い炎症があって、とても調子が悪いシックデイには、やはり対応しきれないことがあるようです。ただ、これまでそれなりに頑張ってきた積み重ねもあって、アップダウンを繰り返しながらも、「回復のサイン」とされるACTHの“大波”にまた出会うことができました。
シックデイで服用したコートリルの量は、1日目は2.5mg、2日目は22.5mg、3日目は20mg、4日目は朝に5mgだけ服用して、無事断薬にも成功しました。回復期はステロイドの影響を受けやすいため、今回の投与からの抑制が少し心配でしたが、数値を見るかぎり問題なさそうで安心しました。
これからも、感染症・発熱・怪我・手術など、明らかなシックデイには迷わず10mgを使っていこうと思います。
突然の入院だったにもかかわらず、小麦粉と乳製品を除いた病院食を用意していただきました。コートリルの服用と輸液のあとには食欲もすぐに戻り、美味しくいただくことができました。
まとめ
これからも、自分の体と上手に付き合っていくための試行錯誤は続きそうですが、少しずつ状況は良くなっていますし、いろいろな“非日常”を乗り越えるスキルも身についてきている気がします。
いつもマニアックな質問にも丁寧に答えてくれて、今回のシックデイもすんなり解決してくれたS先生は、私が最も尊敬している内分泌の専門医です。そんな先生から、少しずつ学ばせてもらえるのが、何よりの支えになっています。S先生、いつも本当にありがとうございます。