Hint新しい基準値?

欧米のコミュニティの方々の情報から、最近の研究でACTH刺激試験のコルチゾールの基準値(カットオフ値)が見直されていることを知り、気になったので、「自由研究」として詳しく調べてみました。

なぜ基準値が変わるの?

新しい測定方法であるモノクローナル抗体を使ったCLEIAやLC-MS/MSでは、従来の方法よりも正確にコルチゾールを測定できるとされています。一方、従来の多クローン抗体を使った免疫アッセイでは、他のホルモンと反応してしまい、コルチゾール値が実際よりも高めに出ることがありました。そのため、新しい測定法では測定値が20〜36%ほど低くなる傾向があり、従来の基準である18μg/dLが高すぎる可能性が指摘されています。

測定法 特異性(精度) 現在の普及状況
RIA(放射免疫測定法) 低い(交差反応あり) ほぼ使われなくなった
CLEIA(従来の多クローン抗体法) 中程度(交差反応あり) 現在も一部で使用
CLEIA(モノクローナル抗体法:Elecsys II, ベックマン等) 高い(交差反応が少ない) 日本で普及が進んでいる
LC-MS/MS(質量分析法) 最高(交差反応なし) 最新だが、まだ普及途⼊
新しいカットオフ値の提案

特にAbbott Architectという測定法では、新たな基準値として「14.6μg/dL」が示されており、ACTH刺激試験における新しい基準値として「14~15μg/dL」が研究で提案されています。しかし、これらの基準値はまだ公式なガイドラインには反映されていません。この見直しは、より正確な測定法に適応させるためのものであり、従来の基準をそのまま適用すると、誤って副腎不全と診断されるリスクを防ぐことを目的としています。

患者さんが知っておくべきこと

以前「測定方法の違い」でも触れていたことですが、ACTH刺激試験の結果を判断する際には、使用される測定法によって基準値が異なる可能性があることや、交差反応の影響を受ける可能性があること、コルチゾールの数値が低く出たからといって、必ずしも副腎不全とは限らないことを知って、結果について主治医とよく相談し、必要に応じて追加の検査や評価を受けることが大切だと思いました。

参考にされていた論文

New Cutoffs for the Biochemical Diagnosis of Adrenal Insufficiency after ACTH Stimulation using Specific Cortisol Assays – 2021 Feb 18
新しいコルチゾール測定法の導入により、ACTH刺激試験の基準値(カットオフ値)が14~15μg/dLに引き下げることが推奨されています。これは、従来の多クローン抗体アッセイを用いた測定では、他のホルモンとの交差反応の影響でコルチゾール値が実際より高めに出ることがあったため、従来の18μg/dLという基準値では誤って「副腎不全」と診断される可能性があることが指摘されたためです。

ACTH Stimulation Test for the Diagnosis of Secondary Adrenal Insufficiency: Light and Shadow – 2023 Mar 15
新しい研究によると、従来の免疫アッセイ(RIAや多クローン抗体CLEIA)と比較して、モノクローナル抗体を用いた新しいCLEIAやLC-MS/MSでは、コルチゾールの測定値が約20〜36%低くなることが分かっています。そのため、従来のカットオフ値(18μg/dL)では正確な診断ができない可能性があり、測定法ごとに適したカットオフ値を設定する必要があります。例えば、Abbott Architect コルチゾール免疫アッセイでは、新たなカットオフ値として14.6μg/dLが推奨されています。

New Diagnostic Cutoffs for Adrenal Insufficiency After Cosyntropin Stimulation Using Abbott Architect Cortisol Immunoassay – 2022 July
Abbott Architectコルチゾール免疫アッセイを使用した場合、ACTH刺激後60分のコルチゾール値の新たなカットオフ値として14.6μg/dLが推奨されています。これは、従来の18μg/dLという基準値が多クローン抗体を使用した免疫アッセイに基づいて設定されていたのに対し、より特異性の高いモノクローナル抗体アッセイでは測定値が低くなるため、より適切なカットオフ値として見直されたものです。この研究は、ACTH刺激試験の解釈には、測定法ごとの特性を考慮し、従来の基準値をそのまま適用しないことが重要であることを示唆しています。

2025.3.3 掲載

国内外の情報・論文・コントロール良好な方の体験談などから見つけた情報を記録しています。副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する情報は「Note」へ、体験談やヒントなどは「Hint」へ、その他の内容は「Misc」に記録しています。

※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解です。