Hintしっかり補充の誤解 必読

本当の意味での「しっかりコートリル飲もうね」って、どういうことかご存知ですか?

一見すると、「多めに飲んでいれば安心」と思いがちですが、実はこの多めの投与って、体内では急上昇と急下降を繰り返すジェットコースター型になりがちで、谷(コルチゾールが不足する時間帯)が深くなることで、かえって体調不良を招くケースも多いそうです。

「コートリルは多ければ効くわけではない」「ホルモンの谷底を低くしすぎないように調整することが大切」この視点は、令和6年度の市民公開講座でも、医師でもある患者さんから紹介されていたのは記憶に新しいですが、実際に可視化されたデータや補充の工夫を見ていくと、その意図がよくわかるように思います。

欧米では、こうした背景からリアルタイムでのコルチゾール測定や、生理的リズム(サーカディアンリズム)に近づける補充法が話題になっています。そして今、わかってきているのは、サーカディアンリズムを模倣することで、体調が安定する可能性が高いということです。

[出典]Hindmarsh, Peter C.; Geertsma, Kathy. Replacement Therapies in Adrenal Insufficiency. Elsevier Science. Kindle.

ただし、そのリズムの模倣には個人差も大きく、そのプロセス自体が一筋縄ではいかないというのも現実です。たとえば、ヒドロコルチゾンの吸収や代謝は、腸内環境やCYP3A4などの代謝酵素や併用薬の影響も受けるため、同じ飲み方をしても人によって効果にばらつきが出てしまいます。

補充=血中濃度ではない

コートリルは、10mgを飲んだからといって、血中コルチゾールが必ず10μg/dL補充されるわけではありません(=参考)。利用能が高い人では、10mgの服用で36μg/dLを超えることもあるとされており、また、血中濃度が16〜18μg/dLを超えるとコルチゾール受容体が飽和し、それ以上は体内でうまく使われずに排出されやすくなるという特徴もあります(=参考)。

こうした薬理特性を考えると、先生が見立ててくれた量よりも多めに飲んでいる人ほど持ちが悪く効きが不安定と感じやすいのも、ある意味では自然なことだとわかります。

実際、この図でも示されているように、わずか2.5mgの服用でも血中コルチゾールは大きく上昇しています。「激しい運動時でも追加は5mgまで」とされているのも、自発がある場合は1.25〜2.5mgの追加でも十分な効果が出ることも、コートリルの強さを踏まえれば、非常に理にかなった考え方だと感じます。

足りない時間帯の対処法

コートリルによる補充療法は、このように「余る時間」を減らすことはできても、どうしても少し足りない時間帯ができてしまうのは避けられないことでもあります。でも、その「足りない時間」を無理なく過ごす工夫は、欧米では多く共有されていて、それは「off the table」──つまり、追加投与を前提とせず、薬以外の手段で乗り切るという発想にもとづいています。

日本では、こうした「全体のリズム」や「日内変動の構造」が十分に周知されていなかったため、体調が悪いときの対応は、とにかく「追いコートリル」や「ベース量の増量」といった単一の選択肢になりがちでした。

とはいえ、実際には日本でも、追加が必要になる場面で「量を増やす」よりも、投与タイミングや分け方を見直したり、日常の工夫でカバーするというスタイルを実践されている方もいらっしゃいます。そうした小さな積み重ねが、結果的に生涯にわたって適正な維持量で安定した生活を送ることにつながっているケースもあると感じます。


「しっかり補充する」とは、たくさん飲むことではなく、体が必要とするタイミングに、必要な分だけ届けてあげること──そんな視点を頭の片隅に置きながら、自分の体と対話するように、少しずつ調整していくことが大切だと思いました。

出典


2025.6.22 掲載

読んでくださった方が、自分なりの工夫を見つけるヒントになればうれしいです。
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