Note甘草とグレープフルーツ
副腎皮質機能低下症の補充療法では、プラマイゼロ(生理的なコルチゾール量)の服用を目指し、不足による不調を防ぎつつ、過剰による糖尿病や骨粗鬆症などの副作用リスクをできるだけ減らすことが重要と言われています。
欧米の論文・専門書・コミュニティでは、甘草・グレープフルーツ・一部の薬物やサプリなどを併用すると、コートリル(ヒドロコルチゾン)の代謝や作用が変化し、過剰または不足を引き起こす可能性があり、その結果、意図しない副作用や、さらなる機能低下に繋がるリスクがあると指摘されています。
その情報源となっている文献の該当部分を引用して、適量模索へのヒントをまとめてみました。
Please note the amount of cortisol gained from each dose will be different in each person. There can be many influencing factors such as height, weight, absorption, clearance, half-life, the time of day the medication is administered (early morning versus late evening), other medications being taken, along with certain foodstuffs, for example, grapefruit juice, licorice and a low carbohydrate containing diet (see Chapters 10 and 13).
Hindmarsh, Peter C.; Geertsma, Kathy. Replacement Therapies in Adrenal Insufficiency (p.251). Elsevier Science. Kindle.
欧米のコミュニティで話題になっている、Peter C. Hindmarsh(内分泌医)とKathy Geertsma(患者家族)の副腎不全の補充療法の書籍「Replacement Therapies in Adrenal Insufficiency」(2024年3月29日に出版)には、コルチゾールの各服用量から得られる効果は個人によって異なり、例えば、身長・体重・吸収率・クリアランス・半減期・投与される時間帯(早朝 or 夜)・他に併用している薬・特定の食品(例えば、グレープフルーツジュース・甘草・糖質制限食)など、多くの影響要因がある事が書かれています。
Liquorice inhibits 11βHSD type 2, which protects the renal mineralocorticoid recep tor from cortisol, and concurrent use with glucocorticoids can lead to oedema, hypertension, and hypokalaemia. Grapefruit juice inhibits cytochrome P450 3A4 and induces intestinal drug transporters, increasing the availability of hydrocortisone and enhancing its effects.
Eystein S Husebye – Adrenal insufficiency
欧米のコミュニティで話題になっている、Eystein S Husebyeの副腎不全の論文「Adrenal insufficiency」(2021年2月13日に公開)には、甘草をグルココルチコイドと同時に使用すると、浮腫・高血圧・低カリウム血症を引き起こす可能性がある事や、グレープフルーツジュースはCYP450 3A4を阻害し、腸内の薬物輸送タンパクを誘導することで、ヒドロコルチゾンの利用可能性を高め、その効果を増強する事が書かれています。
Corticosteroids (systemic): Licorice may increase the serum concentration of corticosteroids (systemic). Monitor therapy.
Licorice – Drugs.com
Cortisone: Licorice may increase cortisol serum levels. Monitor therapy.
インターネットで利用可能な最大規模の医薬品情報サイトのDrugs.comには、甘草とコルチコステロイドとの併用は、コルチコステロイドの血清濃度を増加させる可能性があり、コルチゾンとの併用は、コルチゾールの血清濃度を増加させることがあると書かれています。
甘草の影響
甘草(リコリス)は、浮腫・高血圧・低カリウム血症を引き起こし、コルチゾールの効果を強める可能性があるため、意図せずクッシング症候群様の症状を引き起こす恐れもあります。甘草を摂取すると元気に感じることがありますが、これは甘草が体内のコルチゾールを増加させているためで、漢方薬自体の効果で体調が良くなっているわけではない可能性もあります。体内でコルチゾールが増えていることに気づかない場合、長期的には副作用や副腎の予備能に悪影響を与えるリスクがあります。
グレープフルーツの影響
グレープフルーツは肝臓のCYP3A4酵素を阻害し、コートリルの代謝を遅らせることで、体内のコルチゾールを増加させるリスクがあります。体調が良いと勘違いしてしまい、体内でコルチゾールが増えていることに気づかない場合、長期的には副作用や副腎の予備能に悪影響を与えるリスクがあります。
補充療法への影響
副腎皮質機能低下症の治療の目的はプラマイゼロの補充によって適切なホルモンバランスを維持することです。甘草・グレープフルーツ・一部の薬物やサプリなどの併用で、コルチゾールのバランスを崩し、病状を悪化させる可能性がある事から、これらの食品を避け、ホルモン補充療法を安定的に行うことが、予後を良好に保つために重要と言われています。
[参考]Grapefruit juice and licorice increase cortisol availability in patients with Addison’s disease
[参考]Licorice – Icahn School of Medicine at Mount Sinai
偽アルドステロン症のリスク
もし偽アルドステロン症になってしまった場合は、原因医薬品の中止後も、数週間ほど症状と臨床検査値異常が残存するらしく、甘草やリコリスの服用中止でパッと治る訳でもないそうです。
ツムラの「偽アルドステロン症」の資料には、副腎皮質ステロイドも併用注意と記載があり、服用してから1年以上経過して発症した症例が52%、治療や薬剤の中止により回復・軽快した症例が全体の約80%(2024年1月31日現在)だそうです。残りの20%の中には、後遺症や死亡例もあり、回復までに数週間〜長い期間かかる事もあるそうです。
厚労省の偽アルドステロン症の対応マニュアルには、生薬としての甘草を1日投与量として1〜2gの医療用漢方薬が原因で発症する事もある事、低カリウム血症に伴い心室性不整脈を来した症例も稀ではない事、ヒドロコルチゾンは併用注意な事が記載されています。
[出典]偽アルドステロン症 重篤副作用疾患別対応マニュアル – 厚生労働省
甘草の重複
甘草やグリチルリチンは、かぜ薬・解熱鎮痛薬・健胃薬・総合胃腸薬・鎮咳去痰薬・婦人用薬・ビタミンサプリ・食品添加物・チョコレートなどに含まれていることがあります。もし治療でコルチゾールや甘草の服用が必要な場合、他の製品からの摂取に気を付けることで、リスクを下げることができるかもしれません。
不調の重複
偽性アルドステロン症の症状とコルチゾール不足の症状は、どちらも電解質バランスの乱れによって多くの点で重複しています。どの症状がコルチゾール不足によるものか分からなくなったり、その不調によってさらにコルチゾールを消費してしまうことも考えられます。
ノイズや不安要素を排除し、なるべく不調や病気を増やさないよう工夫して、コントロールしやすいコンディションに整えることが、プラマイゼロ(生理的なコルチゾール量)を目指す近道と考えられています。そのため、欧米の副腎皮質機能低下症の患者の多くは、甘草やグレープフルーツの摂取に注意しています。
国内外の情報や論文・コントロール良好な方の体験談などから見つけた情報を集めています。副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する事は「Note」へ、体験談やヒントなどは「Misc」に記録しています。
※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解である事をご了承ください。