Note補充療法の漸減アプローチ 重要
2022年6月29日に掲載されたDaily Glucocorticoid Replacement Dose in Adrenal Insufficiency, a Mini Review(副腎不全におけるグルココルチコイド補充用量)という論文に、補充量の定義とタイトレーション(薬の増減によって至適補充量を模索する作業)のアプローチ方法が具体的に書かれていたので、内容を要約してみました。
内分泌学会のガイドラインでは、副腎不全を患う健康な人(healthy individuals with AI)の1日当たりのコルチゾールの補充量を15~25mg(中間値20mg)と推奨していますが、平均DCPR(本来の自発コルチゾール値=Daily cortisol production rate)は7.0mg/㎡で、175cm・73kg・1.9㎡の男性を基準に定義している点や、生物学的利用能を70%として換算している点が、現在の文献と解釈が合わなくなっているそうです。そこで、多様性を考慮したHusebyeの治療推奨事項を元に、163cm・54.4kg・1.6㎡の女性も含める事と、研究から「生物学的利用能を100%」として換算する事で、予測平均補充量の予測範囲は4.3〜26mg(中間値15mg)と算出しているそうです。
加えて、予測範囲が広い事を考慮すると、BSA(体表面積)が比較的低く、発症前のDCPRが正常値よりも低い体質だった場合は、最大数倍の過剰補充が行われる可能性があり、微量でも長期的に過剰な状態が続いた場合は、心血管代謝障害や感染症による死亡を含む合併症に関連しているという研究※1も存在する事から、補充療法のタイトレーションを行う事を推奨しているそうです。
- アプローチ方法1:上限(20~25mg/day)に近い用量で補充を開始して、中枢性肥満・筋力低下・内出血・高血圧・糖尿病・静脈血栓症・心血管疾患・心筋梗塞・脳卒中・骨粗鬆症などのコルチゾール過剰の兆候が現れた場合に用量を減らす方法です。このアプローチの明らかな欠点は、最適な量を見つけるまでに時間がかかる事、軽度の過量の場合には上記の兆候が出ない事、減薬する前に不可逆的な末端器官損傷が発生する可能性がある事です。
- アプローチ方法2:コルチゾールの許容最低用量までゆっくりと漸増して、軽度な副腎不全の兆候が得られた時点で、用量をわずかに増やす方法です。副腎不全は比較的早く兆候が出るものの、その症状は容易に元に戻せると予想されている事と、副腎不全の患者は診断まで何年も生存しているという研究結果※2からも、副腎不全を患う健康な患者が、軽度のコルチゾール補充量の不足によって副腎クリーゼを引き起こす可能性は低く、体重減少や低血圧などの副腎不全の多くの特徴は、比較的好感度で特異的であるため、この漸減アプローチによって、より短期間・より少ないダメージで、最適な量を見つける事ができると予想されます。
漸減アプローチは、コルチゾールの離脱症状と副腎不全の症状の混同を避け、重篤な副腎不全を回避するために、2~6か月ごとにグルココルチコイドを約4~5mgずつ、ゆっくりと減らすことにより、それぞれに最適の補充量を見つけるという定義で「コルチゾールの離脱症状と副腎不全の症状を見分ける事」が、最適な量まで到達する為の重要なポイントの様です。
- 補充療法のタイトレーションの原文
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The first approach is to treat with HC doses near the upper normal range (20 to 25 mg/d). Then lower the dose if the patient develops evidence of cortisol excess, such as central obesity, muscle weakness, violaceous abdominal striae, hypertension, diabetes, venous thrombosis, cardiovascular disease, myocardial infarction, stroke or osteoporosis. This approach has obvious disadvantages. These endpoints are delayed and either nonspecific or insensitive markers of mild glucocorticoid excess. Furthermore, irreversible end organ damage may develop before the glucocorticoid dose is decreased.
A second approach is to slowly titrate to the lowest tolerated HC dose until there is evidence of mild AI, and then increase the dose slightly. The features of AI are expected to develop relatively rapidly, and be readily reversible. Since patients with AI can survive for many years undiagnosed (2), since mild under-replacement is unlikely to cause adrenal crisis in otherwise healthy individuals, and since many features of AI, such as weight loss and hypotension, are relatively sensitive and specific, then it is anticipated that this down titration approach will identify the correct daily glucocorticoid replacement dose for a given individual in a shorter time frame with potential for fewer adverse outcomes.
In the titration study the individualized daily glucocorticoid replacement dose was determined by slowly decreasing the glucocorticoid by about 4 to 5 mg HC equivalent every 2 to 6 months to avoid confusing glucocorticoid withdrawal symptoms with AI symptoms and to avoid severe AI
様々な原因による原発性・続発性副腎皮質機能低下症の健康な成人25名を対象に、この漸減アプローチを用いて、体重減少・症候性低血圧・低ナトリウム血症・その他の原因不明の疲労の兆候を目安に、さらなる漸増が不可能にまるまで2~6か月ごとに5mgの減薬を続けて、それぞれの患者に合った補充量を見つける事に成功し、この方法の安全性が評価され、以前の補充量と比較しても、副腎クリーゼのリスクが増加しない事が示された※3そうです。
現在の環境では一部の患者にとって正常なDCPRが肥満・糖尿病・高血圧などの疾患の一因となる可能性があり、一部の副腎皮質機能低下症の患者が、非常に少ない補充量で体調維持が出来ている事や、頓服でも暮らして行ける患者が存在する理由を、コルチゾール合成阻害剤やグルココルチコイド受容体拮抗薬などを使用して、検証できる可能性がある事が記載されていました。
欧米では、至適補充量の模索に取り組む医療機関が増えてきているとは言え、まだ取り組みが出来ていない方々も一部存在していて、生活改善などで比較的体調が整ったタイミングで、自分にピッタリの補充量を探したい場合に、この論文などを資料として受診日に持参して、服薬計画に反映させてもらっている様です。
- Bensing S, Brandt L, Tabaroj F, Sjoberg O, Nilsson B, Ekbom A, et al.. Increased Death Risk and Altered Cancer Incidence Pattern in Patients With Isolated or Combined Autoimmune Primary Adrenocortical Insufficiency. Clin Endocrinol (Oxf) (2008) 69(5):697–704. doi: 10.1111/j.1365-2265.2008.03340.x
Filipsson H, Monson JP, Koltowska-Haggstrom M, Mattsson A, Johannsson G. The Impact of Glucocorticoid Replacement Regimens on Metabolic Outcome and Comorbidity in Hypopituitary Patients. J Clin Endocrinol Metab (2006) 91(10):3954–61. doi: 10.1210/jc.2006-0524 - Husebye ES, Pearce SH, Krone NP, Kampe O. Adrenal Insufficiency. Lancet (2021) 397(10274):613–29. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00136-7
- Caetano CM, Sliwinska A, Madhavan P, Grady J, Malchoff CD. Empiric Determination of the Daily Glucocorticoid Replacement Dose in Adrenal Insufficiency. J Endocr Soc (2020) 4(11):bvaa145. doi: 10.1210/jendso/bvaa145
国内外の情報や論文・コントロール良好な方の体験談などから見つけた情報を集めています。副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する事は「Note」へ、体験談やヒントなどは「Misc」に記録しています。
※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解である事をご了承ください。