Hint水分バランスと副腎機能

副腎皮質機能低下症の症状としては、「だるさ」「低血圧」「低ナトリウム」などがよく知られていますが、私自身、もうひとつよく感じる体の変化があります。それは、「コルチゾールが不足しているとき、トイレが極端に遠くなる」ということです。

一気に水分が出る瞬間

旅行や予定のある朝は、そもそも前日からのパッキングや準備で、すでにコルチゾールが不足気味になっていることが多くありました。そんなタイミングで、少しだけコートリルを多めに(たとえば10mg)頓服することがあります。すると、それまで明らかにトイレが遠くなっていたのに、補充後は急に何度もトイレに行くほど水分が排出される、という変化が起きることがありました。

当時は「補充で腎臓が元気になったのかな?」くらいに感じていたのですが、今思えばこれは、抗利尿ホルモン(ADH)が過剰に働いていた状態が、補充によって解除されたサインだったのかもしれません。

資料

副腎皮質機能低下症では、コルチゾールが不足しているときに次のようなことが起こるそうです。

  • 抗利尿ホルモン(ADH)が過剰に分泌される
  • 体が水分をため込もうとする反応が強くなる
  • その結果、浮腫みや尿量減少が起きやすくなる

そしてコルチゾールを補充すると、ADHの働きが抑制され、体に溜まっていた水分が一気に排出される(多尿)という現象が起きることがあるみたいです。実際に報告されていた症例では、副腎不全の患者にヒドロコルチゾンを補充したところ、数時間後に最大で930mL/hrの尿量が出たとのこと。これはまさに、私が感じていた体感そのものだと思いました。

「浮腫み=ステロイド過剰」とは限らない?

一般的に、副腎不全患者が「浮腫んでいる」と聞くと、「コートリルが多すぎるのでは?」と考えられがちですが、実際には“不足していても”浮腫むことがあるようです。コルチゾールが足りず、抗利尿ホルモンが過剰に出ているとき。そして、それに気づかず水分だけを取っていると、体に溜まる一方になってしまうケースもあるみたいです。

栄養や電解質が「補充の受け皿」に

今回の症例では、「コルチゾール補充だけでは改善せず、ナトリウムやブドウ糖など、体の状態を整える補正も行うことで、はじめて意識状態などが改善した」と報告されていました。この流れを見て、「コートリルの効きが悪いときは、受け皿(=体の準備)が整っていなかったのかもしれない」と、あらためて感じました。

国内でも、コートリルを飲んだ後に、なぜか不調になるといった体験談を耳にすることがありますし、欧米の患者さんたちが「補充だけに頼らず、栄養や代謝の土台を整えよう」と言っている理由が、ようやく実感としてわかってきた気がします。

  • ナトリウムやカリウムなどの電解質バランス
  • 血糖や少量の糖質など、最低限のエネルギー源
  • 水分は「取りすぎず、足りなすぎず」適量を意識
  • ビタミンB群やマグネシウムなど、代謝を回す補酵素

こうした状態を整えておくことで、コルチゾールが体の中でうまく働ける環境が作れますが、逆にそれが不十分なまま補充してしまうと、うまく作用せず、かえって体に負担がかかることもある——そんなことをあらためて考えさせられた症例でした。

[出典]日本内分泌学会雑誌(2024年 第100巻)副腎皮質機能低下症治療におけるPitfalls

2025.5.18 掲載

国内外の情報・論文・コントロール良好な方の体験談などから見つけた情報を記録しています。副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する情報は「Note」へ、体験談やヒントなどは「Hint」へ、その他の内容は「Misc」に記録しています。

※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解です。