Hint副腎クリーゼの誤解
副腎皮質機能低下症のブログなどでよく見かける「副腎クリーゼ」という言葉。でも、実はこの言葉、医師と患者で意味がズレて使われていることがあるみたいです。たとえば、「今日は軽いクリーゼだった」「盛大なクリーゼをおこした」「クリーゼおこしまくった」といった表現です。そのつらさは本物でも、医学的には“副腎クリーゼ”ではないことも少なくありません。
今回は、自分自身の体験もふまえて、「副腎クリーゼって何?」「どんなときに使う言葉なの?」「コートリルの追加の目安は?」という視点から、誤解されやすいポイントや、実際の対応について整理してみようと思います。
副腎クリーゼとは?
副腎クリーゼという言葉には、「命に関わるような急激な体調悪化」という意味があります。具体的には、コルチゾールが極端に不足することで、生命維持に関わるような重い症状が出る状態を指します。血圧低下・脱水・意識障害・ショック・けいれんなどが見られ、迅速な輸液やホルモン補充が必要なレベルです。放置すると、脳障害・多臓器不全・最悪の場合は死に至ることもあるため、早期の判断と対応が必要になります。
でも実際には、そこまで重篤な状態でなくても、「だるさがひどい」「吐き気や寒気がする」「消化器症状がある」「横になるしかない」といった不調が出ることもあります。体感としてはつらくても、こうした状態は、医学的には「副腎クリーゼ」とは診断されないことが多く、あくまで前駆症状や軽度の不調とされるケースも少なくありません。
患者の勘違い
医師が「クリーゼではない」と判断するのは、あくまで医学的に見て“まだ命に関わるような重篤な状態には至っていない”という意味です。けれど患者側としては、「ここまでしんどいのに、それでもクリーゼじゃないの?」と感じてしまうことがあります。その背景には、「副腎クリーゼ=酷めのコルチゾール不足」というように、言葉の定義を少し違った意味でとらえてしまっている可能性があります。
この“言葉のズレ”があると、医師の説明と患者の受け取り方にギャップが生まれ、たとえ「心配ありませんよ」と言われても、不安が解消されなかったり、誤解によって誤った判断をしてしまうこともあります。
- 患者の認識:「今日はだるいし、吐き気もあったし、頻脈もあって、盛大な“クリーゼ”です」(=本人としては非常にしんどく、いつもと違う体調不良)
- 医師の判断:「血圧は保たれているし、意識もある。副腎クリーゼとは言えない」(=医学的に言う“クリーゼ”ではない)
このような場面で、医師が「それは“前駆症状”だったかもしれませんね。クリーゼではないですが、早めに対処できたのは良かったと思います」といったふうに説明してくれると、安心したり理解したりできますが、現実にはそこまで丁寧なフォローが難しいこともあります。
また一方で、医師側も「患者さんが少し違った意味で使っているのは気づいているけれど、訂正すると気を悪くするかも」「今さら言いづらい」と思って、あえて触れずに見守っているケースもあるのかもしれません。
定義を見直したきっかけ
私の場合、主治医から「クリーゼになる可能性は低い」と言われていたことから、「軽度のコルチゾール不足になかならないところまで回復した」と誤解してしまっていました。そんな中、あるシックデイの際にコートリルを追加せずにしばらく様子を見てしまい、その結果、“プレ・クリーゼ”と呼ばれる複数の症状が現れ、最終的に病院で対応していただくことになりました。
病院を受診する前にコートリルを追加したものの、症状はすぐに改善せず、不安な状態で検査を受けました。意識があり、服用したコートリルも吸収されていて、心電図に異常がなかったため、「クリーゼには至っていない」との診断でしたが、回復には輸液が必要な状態でした。
こちらの図では、今回出た症状を青枠でマークしています。コートリル10mg飲んでから受診したからなのか、低血糖にはなっていませんでした。この状態だと、コートリル飲んだだけでは持ち直せず、輸液とあわせて初めて「生きた心地がしない体調」からは脱しました。
そのとき私自身も、SNSなどで見かけた“クリーゼ”の表現に影響されていたのか、「え?これってクリーゼじゃないんですか?」と先生に直接聞いてみたんです。すると先生は、「副腎クリーゼは、命に関わるようなレベルの状態を指します。今のあなたの状態は、そこまでではないけれど、前駆症状が出ていたので、追加が必要な状態でした」と説明してくれました。
このとき初めて、今まで感じていた“クリーゼって一体どこから?”というモヤモヤが腑に落ちました。
こうした“言葉のズレ”や思い込みは、ときに重大な判断ミスや過不足のある対応につながってしまうことがあります。なので、「副腎クリーゼ」という言葉の意味や正しい使い方を知っておくことはとても大切だと感じています。
追加の目安
こちらの図では、コルチゾール不足のサインと、副腎クリーゼに至る流れ、そして欧米の患者さんが目安にしている「いくつかの症状が重なったときの追加の目安」などを整理しています。
慢性的なコルチゾール不足に対する「補充療法の微調整」は、主治医とともに行なっている方が多い印象です。ベース量を増やしたくない場合は、ライフスタイルを薬の量に合わせる選択や、「off the tableの工夫」も有効です。「副腎クリーゼを疑う症状」が出た時は、「副腎クリーゼ」まで進んでしまわないように、コートリルの追加など、適切に対処しなければなりません。
コートリルは一時的な増量なら、副作用の心配は基本的に少ないですが、ゼロリスクではありません。「体調が悪い=すぐに追加」ではなく、慎重に観察しながら、必要なときに適切な量を追加して予防していくことが大切です。但し、医師から「どんな状態でも無条件で追加してよい」と指示される場合は、必ず医師の指示に従ってくださいね。
副作用を考えると、「一時的に足して戻す」はOKでも、「なんとなく頻繁に増やす」のはリスクがあります。大事なのは、「なぜ追加したか」「どれだけ頻繁に追加しているか」ということも把握して、改善できる部分は改善していくことです。なるべく追加しないで済む体に整えることが一番のセルフケアになります。
このように、「どう追加するか」ではなく、「どう追加しないで過ごせるようにするか」を考えることが、補充療法と長く安定して付き合っていくためのカギになると思います。
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※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解です。