Note下垂体の市民公開講座 国内
2024年3月16日(土)14時から、東京女子医科大学の弥生記念講堂で行われた「市民公開講座・厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 間脳下垂体機能障害に関する調査研究 班」のWeb配信を視聴しました。その中からコルチゾール補充療法に関する部分をメインにまとめてみました。
この講座に「コルチゾール補充療法で、コルチゾール結合グロブリン(CBG)の影響や、コルチゾール誘導薬と阻害薬(CYP450)は、現状どの程度考慮するべきでしょうか?」という質問をしてみたところ「現在影響がわかっている薬があるので、それは考慮すべきで、薬量を数値ベースでなく体感で調整する」という回答をいただきました。
CBGの影響がある場合、検査結果の数値が高く見えるけど、実際は補充されていなかったり、低く見えるけど、実際は補充されていたりするという事が起こるので、体感で服薬の調整が必要になるという事で、以前からコルチゾールとCBGの影響について調べていた事と全く同じ内容でした。
副腎クリーゼの原因
胃腸炎・胃腸疾患 23%、他の感染症 25%、外科手術 16%、身体的ストレス 9%、心理的ストレス 16%などで、やはり副腎クリーゼの予防には、消化器を整える事が大事な様でした。
White & Arlt, 2010 | Hahner et al, 2010 | Hahner et al, 2015 | |
胃腸炎・胃腸疾患 | 56% | 29% | 23% |
他の感染症 | 17% | 22% | 25% |
外科手術 | 6% | 10% | 16% |
身体的ストレス | 8% | 7% | 9% |
心理的ストレス | 1% | 3% | 16% |
不適切な医療 | 2% | 12% | 14% |
事故 | NA | 3% | 3% |
不明 | 1% | 9% | 10% |
[出典]Adrenal Crisis: Still a Deadly Event in the 21st Century
ストレス時の対応
欧米の情報やガイドラインにもあった様に、基本は「2倍量」までという定義ですが、個人差がある事と、どんどん飲み過ぎると良くないという事もコメントで付け加えていました。
シックデイ
軽度の発熱疾患:2倍量
繰り返す嘔吐下痢:入院の上、経静脈的投与
重症疾患(敗血症・心筋梗塞・膵炎・重症外傷):ソルコーテフ8時間毎50mg静注 or 150mg/dayの持続点滴
手術
マイナー手術(抜歯・内視鏡検査):当日のみ2倍量
メジャー手術(腹部・胸部):ソルコーテフ8時間毎50mg静注 or 150mg/dayの持続点滴、その後2~3日で維持量へ減量
その他
妊娠:増量の必要なし(分娩時は2倍量)
運動:増量の必要なし(マラソンなどの激しい運動時5mg増量)
ストレス(試験・インタビュー):増量の必要なし(欧米では死別などの高ストレスは追加する指導に変更になっている)
嘔吐下痢が繰り返す場合は入院が必要で、運動時は増量の必要がないという情報も、欧米の研究や臨床から推奨されている事と同じでした。
維持期の補充量の調節
欧米の研究と同く、患者さんの全身状態(ホルモン過剰・不足症状の有無)で補充量の調節を行って、長期的な副作用を予防する事が推奨されています。下重体障害の方は、ACTHは常に低値で参考になりにくい事からも、ホルモン値は参考程度で、体感と副作用の有無をベースに適量かどうかの判断をするそうです。
過剰だと、血圧や血糖の上昇・体重増加・皮膚菲薄化・骨密度低下・白内障・緑内障などのリスクがあり、特に過剰による骨密度の低下を懸念されていました。
ヒドロコルチゾン30mg/dayでは骨密度低下をきたしたが、20mg/dayでは健常人と比較して差がなかったとの報告がある事からも、生涯なるべく適切な補充量を心がける事が大切だそうです。
資料で引用されていた論文を参照したところ、低用量の補充(21.9±4.9mg or 11.9±2.7mg/㎡)で治療された原発性副腎皮質機能低下症の患者は、骨への明らかな悪影響がない事が解っていて、骨粗鬆症リスクが高いと言われている閉経後の女性も良い状態を維持しているそうです。また、DHEAの補充が骨に有益な効果をもたらすかどうかは解明されていないものの、DHEAの補充療法を受けた原発性の女性は、受けなかった女性と比較して、良い状態だったそうです。
コートリルの分割について
健康な方のコルチゾールの日内変動を再現するという観点から、1日2回よりも3回の方が好ましいという研究報告がありますが、小数例での検討の報告であり、大規模研究がない事と、飲み忘れの危険性も考慮して、必ずしも3分割にする必要はなく、個々の患者さんに合わせたスケジュールをしているのが現状という事でした。
資料で引用されていた論文を参照したところ、有料記事で概要だけ読む事が出来ました。この研究では食前の1日3回の服用を推奨して、40人中85%が、その服薬スケジュールを継続する選択をしたそうです。
[出典]
Clinical Endocrinology 61:367-375,2004
欧米の研究では、4〜5回に別けて補充している方も多く「6回の補充が自分には最適だった」という体験談も見かけますが、これはコルチゾールポンプによる補充で実現できているのかもしれません。ちなみに私のケースでは、終始朝の1回服用のみでした。
再生医療について
下垂体の再生医療についての質問への回答は「技術的には実現を確認できている」という事ですが、その治療が日本で将来できるかどうかの言及は無く「今行っている治療法で良い状態を維持するように心がけてください」というコメントでした。
災害時の持ち物
コートリルを1週間分・水・お薬手帳は必須という事でした。災害時でも3日あれば薬品の運送が復旧できるようにしているらしいのですが、念のため避難所に到着した時点で、避難所の医療班に必要な薬を伝える様にという事でした。
今回の講座の推奨項目でも、欧米のガイドラインも少し反映されていた事が確認ができました。これからの日本の副腎皮質機能低下症・下垂体機能低下症の医療の発展にも期待できるのではないかと感じています。
国内外の情報や論文・コントロール良好な方の体験談などから見つけた情報を集めています。副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する事は「Note」へ、体験談やヒントなどは「Misc」に記録しています。
※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解である事をご了承ください。