第79話「相乗効果」

診断された当初、主治医から「少量のコートリルを足して運動してみて」と言われたことがあります。ただ、その頃の私は「早歩きしただけでコルチゾール不足」のような状況で、とても運動する余裕がありませんでした。また、少し余ったことによる長期的な副作用を避けたい気持ちもあったため、コートリルを足して行う習慣を増やそうとは思えませんでした。

欧米の成功例

体調が少しずつ安定してきた頃、欧米の患者さんの多くが運動を習慣にしていることを知り、とても驚きました。特に興味深かったのは、彼らの多くが「運動前にコルチゾールを増やす必要はない」という研究をもとに、ほとんど追加無しで運動を続けている点でした。(参考:コルチゾールと運動

具体的には、頓服で管理している人は「頓服を使わず」、常用している人は「追加服用をせず」、服薬後に血糖値が安定している時や、午前中の食後などリスクが低いと考えられる時間帯を選んで運動を行っています。このように、運動を習慣に取り入れることで、多くの方が体調を安定させ、合併症や生活習慣病の予防につなげています

運動習慣への道

長期間の闘病で体力が低下していた私は、まず体調を整え、「コートリルを追加せずに運動できる状態」を目指すことが必要でした。副腎皮質機能低下症に関する書籍を読む中で、治療とは服薬だけでなく、食事・睡眠・適度な運動・ストレス管理・そして生活習慣の見直しといった多くの要素が関わることを学びました。

特に、Hindmarsh教授の書籍にあった「血糖値スパイクはコルチゾールの無駄使いになる」というメカニズムを意識し、糖質の過剰摂取を控えつつ、タンパク質や食物繊維をしっかり摂るバランスの良い食事を心がけていました。試行錯誤をしていく中で、私は「適度な糖質制限」や「分食」という方法で、最低限のコルチゾール補充で日常を過ごせるようになりました。

糖質制限といっても糖質を完全にカットするものではなく、「スイーツを控えつつヘルシーな糖質は適量摂る」というスタイルなので、無理なく続けられています。運動を開始してからは、その日の活動量にあわせて糖質の量を調整するようになりました。

血糖値をブラさない試みを長期的に続けたことで、体調が徐々に安定し、コートリルを足さない運動を継続できるようになりました。運動のタイミングは、血糖値が安定している朝食や昼食の1時間後を目安にし、それ以外の時間帯に運動をする際は、血糖値の低下やミネラル不足を防ぐために、スポーツドリンクを飲みながら行っていました。

Apple Watchのデータを活用して負荷を客観的に判断し、無理をしないようロジカルに取り組むことを心がけた結果、徐々に安定へとつなげることができました。運動の負荷を少しずつ高めていく中で、運動後にコルチゾール不足の症状が現れることもありましたが、何度も失敗を重ねながら数ヶ月かけて軌道に乗せ、最終的に安定するまでには約半年を要しました。

成功の秘訣は、活動量に応じて糖質の量を調整することと、「無理をしない」「諦めない」「継続する」「焦らない」「記録する」「楽しむ」、そして「健全なご褒美を用意する」こと、といったところでしょうか。運動も糖質もコルチゾール補充も、すべて「適量」が大事で、少なすぎても多すぎても体調を崩す原因になるようです。

運動の効果

副腎皮質機能低下症を持つ私たちにとって、「栄養管理」と「適度な運動」は、互いに補完し合う重要な柱です。特に、抗炎症効果を意識した「適度な糖質制限」は、適度な運動と組み合わせることでその効果をさらに高められます。これは、欧米の多くの患者さんが「補充の補助策」として実践している方法でもあります。

医師が軽症の副腎皮質機能低下症やHPA軸が少し弱っている方に「適度な運動をしてみて」と指導する背景には、自律神経を整える効果睡眠の質向上やメンタルの安定に加え、運動による抗炎症効果を期待している部分もあるのかもしれません。

私自身、適度な運動を続けることで、自律神経が整い、睡眠の質が向上し、ストレス耐性が高まりました。少しずつ体力がつき、持病による痛みも軽減し、コルチゾール補充に頼らずに動ける時間や範囲が増えました。こうした積み重ねによって、日常生活におけるストレス耐性がさらに向上し、確実に生活の質が良くなっていると実感しています。


闘病日記 by ここ プロフィール