Hint非日常の負荷の対応例
日々の生活の中で、「ただの疲労や軽い体調不良」と「コルチゾール不足の症状」をどう見分けるか──これは副腎皮質機能低下症の補充療法において、とても重要なテーマです。少し前の国内セミナーでも「単に疲労が原因なのかを慎重に見極めることが大事」と言われていたのは、記憶に新しいところです。
NADF(National Addison’s Disease Foundation)さんの「A Day in the Life(ある日の出来事)」には、そんな“非日常の負荷”にどう対応したかという、リアルな体験談が紹介されています。その一部を抜粋して紹介します。(※全文は原文を参照ください。)
- Benjaminのストーリー
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Benは毎日同じリズムで生活しており、朝6時に起きて30分のランニングをしてから朝食と共に薬を飲み、学校へ向かいました。Benは、自分の厳格なフィジカル・ルーティンにも強い自負を持っていました。英語(国語)が苦手だった彼は、その日の1時間目で中間試験の結果がB-だったことにショックを受け、午前中ずっと気持ちが落ち込んでいました。昼前の体育の授業中、得意のハードル走の練習で、ふざけていたクラスメートにぶつかられ転倒。足を骨折し、激痛で呼吸もままならなくなりました。救急隊が到着したときには、血圧は80/40、心拍数は130、意識も混濁しており、明らかな副腎クリーゼの状態でした。幸い、病院が彼の副腎皮質機能低下症の記録を把握しており、迅速な処置が行われました。
コルチゾールを消耗したストレス要因は?
ステロイド服用前の朝ラン・成績へのショック・骨折によるケガ
低コルチゾールの症状として挙げられるのは?
吐き気・嘔吐・意識混濁・低血圧
Benが状況を改善するために取れた行動は?
常に医療用アラートを身につける・学校の信頼できる人に病気を伝える・運動前に補充をスケジュールする(追加ではない)・病気を正しく受け入れ、完璧主義を手放す
ケガによる副腎クリーゼを防ぐためにBenができたことは?
医療用アラートの着用・周囲の大人への情報共有
- Arielのストーリー
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Arielはまた5分遅刻して出社し、支店長のオフィスに呼び出されました。定時に間に合わせるには早朝のバスしかなく、寒空の下で待たなければならないこと、普段は残業も多く、努力が報われていないと感じていました。前夜は誕生日で遅くまで外出し、お酒も少し飲みすぎてしまいました。翌朝は気分が悪く、朝食も薬も抜いたまま出勤。支店長から解雇を告げられた直後、目まいや沈むような感覚に襲われ、気を失いました。意識が戻ったとき、床に倒れた彼女に支店長が水をかけていましたが、彼女は状況を理解できず、Ms. Prestonには「芝居がかっている」と叱られてしまいます。ネックレス型の医療用アラートはタートルネックに隠れており、職場にも病気のことは伝えていませんでした。そのまま建物の外に出され、道端で座り込んでいたところを、偶然通りかかった医療関係者が異変に気づき、救急搬送されました。病院で副腎皮質機能低下症と確認され、静脈からコルチゾールを投与されました。
コルチゾールを消耗したストレス要因は?
夜更かしと飲酒・朝食と薬の服用忘れ・遅刻と叱責・解雇通告・意識消失・放置状態
低コルチゾールの症状として挙げられるのは?
吐き気・めまい・沈む感覚・意識消失・混乱・見当識障害
Arielが状況を改善するために取れた行動は?
医療用アラートのネックレスを出して、医療的対応を必要としていることを職員に伝える
どうすればコルチゾール消耗イベントを防げた?
医療アラートを見える形で身につける・職場の信頼できる人に病気を伝えておく・生活リズムを整え、薬と食事を欠かさない・アルコールを控える
- Abbyのストーリー
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Abbyは深夜1時半まで物理のテスト勉強をし、翌朝はアラームを何度もスヌーズ。バスに遅れそうになりながらも、急いで準備して薬を飲み、朝食代わりにプロテインバーを食べました。テストの結果は最高点。喜びに包まれるも、その日はプロム当日。彼氏のJoshと行くのを心から楽しみにしていました。昼休みには飾り付けを手伝い、昼食は抜き。授業終わりに昼の薬を飲み忘れていたことに気づきます。夕方、ドレスアップしたAbbyにJoshから突然の別れのメッセージ。連絡はつかず、彼の母親から「Joshはキャンプに行った」と冷たく告げられます。ショックの中、嘔吐と冷や汗、意識が遠のく感覚に襲われました。
コルチゾールを消耗したストレス要因は?
夜更かし/睡眠不足・バスに遅れそうになった焦り・テストの緊張・高得点による興奮・プロムへの期待・昼食を抜いたこと・昼の薬の服用忘れ・プロム準備の刺激・突然の別れのメッセージ・プロムに行けなくなった失望・嘔吐
低コルチゾールの症状として挙げられるのは?
疲労感、吐き気(昼の服用忘れ後)・嘔吐、冷や汗、立ちくらみ(精神的ショック後)
嘔吐時にAbbyやお母さんが取るべき対応は?
服用できる状態なら、コルチゾールを倍量に増量・服用できない場合は、ソル・コーテフを注射し、速やかにER受診
どうすればコルチゾール消耗イベントを防げた?
規則正しい睡眠をとる・食事を抜かない・薬を時間通りに服用する
今回掲載されている3名の体験談は、すべてアジソン病のフル補充の方の体験談でした。お気付きだと思いますが、「どうすればコルチゾール消耗イベントを防げた?」への専門家の回答は、日本で言う「追いコートリル」のような記載が全くありません。
Maintaining a regular sleep schedule, not skipping meals, taking medications on time.
→規則正しい睡眠を心がけること、食事を抜かないこと、薬を時間通りに服用すること。
Maintaining a regular sleep schedule, not skipping meals, taking medications on time, not overindulging in alcohol, making sure people that regular contact with her knew of her diagnosis.
→規則正しい睡眠を心がけること、食事を抜かないこと、薬を時間通りに服用すること、アルコールを控えること、そして日常的に接する人たちに自分の病気について知らせておくこと。
wear a medical alert bracelet or necklace at all times, inform responsible adults of his diagnosis.
→常に医療用アラートを身につけること、責任ある大人に病気を伝えておくこと。
1箇所だけ服薬に関する記載がありますが、これも日本で言う「追いコートリル」ではなく、「運動前に定期服用をしてね」という意味ですね。
take his medication before putting the physical stress of running on his body
→ランニングなど身体的ストレスをかける前に「定期服用」をすること
「stress dose」という語ではなく、「take his medication」「taking medications on time」と書かれているのがポイントです。これは、“運動前に定期服用しておこうね”や“日常スケジュールの中で服薬時間を守ろうね”という意味で、決して“何かあったらその都度追加してOK”というスタンスではないのが大事なポイントです。
欧米の公式情報をもとに考えると、
- まずはベース量の中でやりくりしてね
- 足りなくなるなら、睡眠・食事・生活習慣を見直してね
- それでもダメならベース量を増やそう(ただし、副作用やコントロール悪化のリスク)
多くの人は②の工夫で折り合いをつけていて、③に進む人は少数派です。そのぶん、過剰投与による副作用やコントロール悪化も少ないので、皆さんそれなりに健康的に暮らしています。
コートリルをお金にたとえるなら──
「もらった給料(=ベース量)でやりくりしてね。ちょこちょこ借金(=追いコートリル)していると、あとで高いツケ(=副作用や調整困難)を払うことになるよ」「でも、事故や病気みたいな緊急時は、借金(=stress dose)してでも乗り越えるしかないよね。それは仕方ないし、命を守るために必要な選択」
世界中で共通して使われてる基準は、こんな感じだと思います。
[出典]「A Day in the Life」- NADF(National Addison’s Disease Foundation)
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※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解です。