
第97話「軌道修正」
今日の午前中は、入院の経緯と今後の体調管理について、かかりつけのH先生のクリニックに伺いました。
まずは、なぜ入院に至ったのかを説明しました。専門医のS先生から「副腎クリーゼの可能性は低い」と言われていたことを、私は諸事情で「軽いコルチゾール不足くらいしかならない」という意味にすり替えて理解していたようで、その誤解が判断を遅らせたことをお伝えしました。
H先生は「なるほど」とうなずいたあと、「命の危機にならないとしても、だからと言ってそれでいいかといえば、患者は大変だよね」と、体感に寄り添った言葉をくださいました。その一言が、まさに目からうろこでした。そう、副腎クリーゼになっていなくても、コルチゾール不足の症状は、とても苦しくて、生きた心地がしないんです。
専門医のS先生も、その点をきちんと理解してくださっていて、「命の危機ではないから大丈夫」ではなく、「私が安心できるか」「ぶり返して困った状態にならないか」を考慮したうえで、今回の入院を決めてくださいました。
治療と体調維持には欠かせない、S先生からの専門知識と親身なサポート。そして、かかりつけ医による生活に寄り添った視点と、状態に合わせた実践的な助言と対応力。どちらも大切で、どちらが欠けても成り立たないと、あらためて実感しました。私にはその両方の理解者がいてくれること、本当にありがたいことだと思います。
ちなみに現在の血中データは、コルチゾール13.5μg/dL、ACTH38.1pg/mL。ここまで回復していても、まだ“強い負荷”に完全には対応できない可能性があります。シックデイ投与と合わせて、場合によっては輸液が必要なこともあるため、その際はH先生のクリニックで対応していただけることになりました。
治療の基本戦略
副腎皮質機能低下症の補充療法には、「多ければ安心」ではなく、「少なくて済むならその方が良い」という基本戦略があります。実際、欧米のガイドラインでは「lowest effective dose(最小有効量)」という表現が繰り返し使われており、日本内分泌学会の「ガイドライン2023年版」にも、「必要最小限の補充が望ましい」という基本方針が明記されています。
つまり、「足りないと危険」だけれど「多すぎても負担」。大切なのは、“最低血中濃度(谷)”を守れる範囲で、できるだけ少なく投与すること。体にとって自然に近いリズムでカバーしながら、「不足しないように注意しつつ」「余分に与えすぎないように」。生活・ストレス・食事・運動とのバランスを見極めながら、「最小限で安定できるポイント(=最小安定点)」を探っていくことが求められます。
この「最小安定点」を見つけていくプロセスこそが、難しくもあり、自分の体と丁寧に対話する、やりがいのある部分かもしれません。
具体的な取り組み
実際に役立っているのが、欧米でよく語られる「off the table(避けられるものはできるだけ排除する)」という視点です。刺激や負担を一つずつ見直し、生活の中から不要な“悪化要因”を取り除いていくことで、補充量を抑えながらも安定しやすい環境が整っています。
運動習慣も欠かせない要素です。軽めの有酸素運動で基礎を作り、体力がついてきたら無理のない範囲で筋トレを取り入れていく。この流れを続けてきたことで、体の土台ができて自律神経が整い、日々の負荷にも強くなりました。
負荷がかかる場面では、コートリルを追加する前に試せる工夫もあります。まず、睡眠や栄養を整えておくことが前提ですが、たとえば暑い日には、水分や梅タブレットなどで電解質のバランスを崩さないよう、あらかじめ調整しておく。不調を感じた場合も、いきなり薬に頼るのではなく、まずはスポーツドリンクなどで様子を見てみる──それでも改善しないときに、はじめて補充を検討する。この“一手間”が、余計なコートリル追加を予防して、あとからの安定につながることも少なくありません。
私自身が一番できていないのは「無理をしない」ことかもしれません。今後はここを意識して、自分に優しく暮らしていきたいです。でも、楽しいことがいっぱいで、なかなか捨てられないものが多くて困っています。でも、そういう日々を送れているのは、ある意味、幸せなことかもしれません。
緊急時にはコートリルに頼るとしても、ふだんはなるべく“自分の足で歩ける”ように、日々の体調を整えて、「どうコートリルに頼るか」ではなく、「どう使わずに工夫できるか」という視点を大切にしながら、副腎皮質機能低下症と無理なく、上手く付き合っていけたらと思います。