Misc短期的な体重変化
補充量を考えるときに、体重をひとつの目安にすることは多いと思いますが、欧米の患者コミュニティでは、短期的な体重変化だけで補充量の適正を判断してしまうと、実際の体の状態を見誤ることがあるので注意が必要とされていて、このことは治療を始めたばかりの人への情報としても共有されています。
健康の面でも美容の面でも「太る」「痩せる」は、単に体重変化ではなく、脂肪の量が増えるか減るかを指すことはよく知られていますね。副腎皮質機能低下症では、コルチゾールや水分バランスの影響で短期間に体重が増減することがありますが、これは浮腫みや脱水による一時的な変化で、脂肪や筋肉の増減とは別のものです。
家庭用の体組成計の盲点
短期間(数時間〜数日)で見られる筋肉量の増減は、ほとんどが水分バランスの影響によるものだということも、よく知られています。ただ、家庭用の体組成計は体内の水分量の変化で数値が大きく動く仕組みのため、実際には変わっていない筋肉量まで増減しているように表示されてしまいます。
筋肉の増減
- トレーニングと栄養をしっかり行っても1〜2ヶ月で1〜2kg程度の増加が目安
- 動かさないと早く減り、1〜2週間の安静で筋力・筋量が5〜10%低下することも
脂肪の減少
- 1日や数日ではほとんど変わらない
- 体脂肪1kgを減らすには約7,000kcalのマイナスが必要
- 食事・運動を組み合わせても週あたり0.5kg程度の減少が現実的
- 目に見える変化が出るのは数週間〜数ヶ月単位
このように、実際の筋肉量の変化はトレーニングや食生活の積み重ねによって数週間〜数ヶ月かけて現れるもので、脂肪が燃焼して減るのにも一定の期間が必要です。短期的な変化は水分による一時的なものと考えるのが適切です。
一時的な数値の揺れ
実際に、私がシックデイでコートリルを増量していた時も、体重は増えず、逆に水分が抜けて少し減ったこともあります。すると家庭用の体組成計では筋肉量が増えているように表示されました。でも、これは実際に筋肉が増えたわけではなく、水分バランスの変化による一時的な数値の揺れに過ぎません。
病気などで短期間で「げっそり」見える体重減少は、水分や胃腸の内容物(食べたもの)、体内のグリコーゲン(糖の貯蔵)が減ることが原因です。これが長引き(数日〜1週間以上)、食事がほとんど取れない状態が続くと、エネルギー不足を補うために筋肉の分解が始まり、特に下半身などの大きな筋肉からエネルギー源として分解されると言われています。
順序の目安
- 0〜数日:水分・内容物・グリコーゲン
- 数日〜1週間以上:筋肉の分解(カタボリズム)
- 数週間以降:脂肪がエネルギー源として徐々に使われる
この順番で減っていくので、短期の体重減少=脂肪が減ったとは言えません。
短期間で筋肉が減ることもある
医学的な報告では、完全に動かない状態(ベッド上安静)になると、1週間で筋力・筋量が約5〜10%低下すると言われています。特に太ももやお尻など下半身の筋肉は早く減りますが、こうした変化も水分変動の影響に紛れて、体組成計にはすぐに正確に反映されないことがあります。
筋肉量の低下と合併症リスク
体重が軽くても筋肉量が少なく体脂肪が多い場合は「隠れ肥満」や「サルコペニア肥満」と呼ばれ、筋肉が少ないことでインスリンの効きが弱くなり、低血糖や糖尿病の原因になることもあると言われています。コルチゾール不足では筋肉が落ちやすく、補充が多すぎる場合も長期的には筋肉が減って脂肪が増えるリスクが高まるため、プラマイゼロのコルチゾール補充が大切です。
副腎皮質機能低下症で筋肉量が減ると、さらにコントロールが難しい体質になり、糖尿病などの合併症リスクも上がります。補充量がどちらに偏っても体型や代謝が崩れやすくなるため、その予防には、適度な運動習慣で筋肉を減らさないことが大切です。実際のところ、筋肉を守る方法は「プラマイゼロの補充」と「運動」しかないので、欧米の患者さんはウォーキングや軽い筋トレなどを日常的に取り入れているケースが多いようです。
※2025年8月現在、欧米の副腎皮質機能低下症のコミュニティには約15,000人が登録されており、運動を習慣にしている方は約4,920人、回復を目指して減薬に取り組んでいる方は約1010人、調整・減薬に取り組んでいる方は480人、論文ディスカッションに参加している患者・医師・研究者は約1,080人いらっしゃいます。
健康的な体重の増やし方
低体重の人が健康的に体重を増やすには、脂肪分やカロリーだけに頼らず、たんぱく質・ビタミン・ミネラルをバランスよく摂りながら筋肉を維持・増やすことが大切です。脂肪だけを増やす方法では、代謝や血糖コントロールをかえって悪化させる原因になるため、健康管理の面では逆効果になります。
短期的な体重変化で判断しない
補充量が適正かどうかの判断は、長期的な体重・血糖・血圧の推移や症状の経過を総合的に評価して行われるものです。たった数日間の体重変化だけを頼りに「太っていない」「副作用が出ていないから適正量」と判断してしまうのは誤解を招く恐れがあるので注意が必要です。
短期的な体重変化の多くは水分バランスによる一時的なものであることを頭の片隅に置きながら、長期的に体重が変化した場合は、その原因が副作用によるものかどうかを見極め、筋肉が減って脂肪が増えている場合は、補充量・食事・運動習慣を見直して、目的に合った方法で体を整えていくことが大切だと思います。
欧米のコミュニティや患者さんが執筆した書籍では、具体的で実践的な知恵がたくさん紹介されています。このブログでは、そのなかから「病院では教えてもらえない工夫」を学び、自分でも試して効果を感じられたことを記録しています。副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する情報は「Note」へ、参考になった情報は「Hint」へ、その他の情報は「Misc」にまとめています。読んでくださった方が、自分なりの工夫を見つけるヒントになればうれしいです。
※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解です。