Hint補充療法の限界と工夫 必読
コートリルを使ったコルチゾール補充療法には、実は限界があることが最近の研究で指摘されています。
例えば1日3回の投与で、朝に10mgをしっかり飲んでも、グラフにあるようにピークと谷の差が大きくなり、身体にとっては「ジェットコースター型」の不安定なリズムになってしまうケースがあります。谷の時間帯ではコルチゾールが不足し、体調不良を起こすことも少なくないそうです。
そのため朝の服用を7.5mgに減らし、投与を4回に分けることで、体調が驚くほど整う人もいるという報告や体験談が数多くあります。このような「サーカディアンリズム模倣」や「分割投与による改善」は、臨床現場や患者目線では「ゲームチェンジャー」と呼ばれるほど大きな変化をもたらす方法とされています。
典型的な不調ループ
補充療法でよくある悪循環はこんな流れになっていると言われています。
- 増量しても余る時間帯ができ「多すぎる副作用」で不調
- 排出が早いため持ちが悪く「空になる副作用」で不調
- 夜も「ほぼ空」となり睡眠の質が低下、翌日さらに不調
- 翌朝の投与で再び「多い副作用」が出て不調
つまり、多めに飲んだからといって解決するわけではなく、むしろ波が大きくなり体調は安定しにくいという構造です。
唯一の予防方法
最近の研究では、症状が安定する最小限の量で、本来のリズムに寄せていくことが重要とされています。これは重症・軽症を問わず共通の考え方で、違うのは必要量だけになります。ただ、この「最小限の量」を実現した状態(上記の図の左側)は、余裕のある時間がほとんどなく、むしろ不足気味の時間の方が多いのが現実です。それでも、副作用や合併症を防ぐにはこれが唯一の方法とされていて、日常生活では小さな負荷を徹底的に削っていくしかなくなります。
私がグルテンフリーを取り入れたり、カフェインや甘いものを控えたり、血糖値スパイクを予防したり、甘草入りの漢方薬やグレープフルーツを避けてきたのは、補充したコートリルで副作用を出さないために必要だったからです。言い換えると、日常生活では小さな負荷を徹底的に削ることと、コートリルの持ちに影響する成分を避けること、この2つを続ける以外に方法がなかったということです。
コルチゾールは少しでも余った状態が続くと副作用につながるため、これから長く続ける補充療法で副作用を防ぐには「多い時間」をなくすことを優先せざるを得ません。その結果として「マイナスになる時間」がどうしても生じてしまいます。プラマイゼロを目指すというよりも、「プラスを作らないためにマイナスを耐える」──それが今の補充療法の限界と言われています。
自発を残すという選択肢
もし自発機能が少しでも残っていれば、この「マイナス」の部分を自力でカバーできる可能性があります。私も少しの自発を頼りに、無駄遣いできない感覚で過ごしながら経過を見ているうちに、結果的に回復することができました。
日本でも徐放型ヒドロコルチゾンが導入されれば、自発がゼロの方にとって「切れる時間帯」を減らせる有効なツールになる可能性があります。一方で、欧米では自発が残っている人の多くが、コートリルと自発のハイブリッドで暮らし、自発をなるべく温存するという選択をしている印象です。
外からのコルチゾールだけで全部をカバーすれば、一見ラクに過ごせますが、その分「自発が働く余地」がなくなってしまい、結果的に自発を失うリスクが高くなります。だから欧米の患者さんは、あえて「全部を薬で埋めない」ようにして、コートリルと自発を組み合わせたハイブリッドで暮らしている。そうすることで、自発を温存しつつ副作用も抑えている──そういう背景なんだと思います。
追いコートリルの落とし穴
コートリルは「完全に元気になるまで飲む」薬ではなく、どうしても不足の時間は残ります。この不足を「追いコートリル」や甘草入りの漢方薬などで埋めようとすると、少し残っていたはずの自発も抑制されてしまいます。下垂体や副腎を外科的に完全に失ったケース(本当に自発ゼロ)を除けば、早い段階から「薬と自発のハイブリッド」を意識できると、後悔の少ない補充ができるのではないでしょうか。
欧米では、すでにこうした考え方が広まり、患者さん自身も知識をつけて主治医と調整しながら取り組むスタイルが一般的になりつつあります。一方、日本の一部ではまだ古い情報のまま「頻繁な追いコートリル」や甘草入りの漢方薬に頼る人も残っています。
また、日本の患者さんの一部には、基礎値が低いだけで「自発がない」と思い込んでしまうケースも見かけますが、実際は負荷試験での頂値が指標になりますので、基礎値だけで判断しないことも大切です。
改善に向けた大切な視点
これから補充療法を始める方は、古い情報には注意して、正しい知識をもとに自分に合った方法を見つけていけるよう願っています。どのケースでも目指すゴールは共通で、健康な人のコルチゾール推移をできるだけ模倣することになりますが、そのためには薬だけに頼らない生活の工夫も欠かせません。
なお、図の推移はあくまで一般的な半減期を示したもので、実際には人によって山や谷の形は大きく異なります。谷が深く出る方もいれば、山が高くなる方もいますし、ラッキーなことに山もなだらかで谷も浅い方もいます。その違いを分ける鍵のひとつが、体質だけではなく、日常生活の中でどれだけ「コルチゾールに影響する成分」や、カフェイン・甘いものといった負荷になるものを避けられるかにあります。そして、治せる病気はきちんと治し、予防できる病気は未然に防ぐことも大切です。
参考資料
Hindmarsh, Peter C.; Geertsma, Kathy. Replacement Therapies in Adrenal Insufficiency. Elsevier Science. Kindle.
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欧米のコミュニティや患者さんが執筆した書籍では、具体的で実践的な知恵がたくさん紹介されています。このブログでは、そのなかから「病院では教えてもらえない工夫」を学び、自分でも試して効果を感じられたことを記録しています。副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する情報は「Note」へ、参考になった情報は「Hint」へ、その他の情報は「Misc」にまとめています。読んでくださった方が、自分なりの工夫を見つけるヒントになればうれしいです。
※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解です。