Hint追いコートリルの罠 必読
日本ではまだ、「日常の不調には、コートリルを追加するのが当然」と思っている方も多いかもしれません。ですが実は、その多くは栄養を整えることでカバーできるということを、欧米の患者さんたちはよく理解していて、“補充療法に頼りすぎないための準備”に力を入れている人がたくさんいます。
この記事では、そうした欧米の患者さんたちの取り組みや、実際の研究データをもとに、「薬を増やす前にできること」を順を追ってご紹介していきます。
欧米の患者が運動している理由
たとえば、Traustadóttirらの研究では、運動習慣のない高齢女性は、若年女性や運動習慣のある高齢女性と比べて、心理的ストレスに対するコルチゾールの分泌反応が過剰になりやすいことが示されています。副腎皮質機能低下症の方は自発できないため、“必要な時に足りない”という状態が起こりやすくなります。
また、運動をしている高齢女性は、そうでない人と比べてホルモンの反応がスムーズで、ストレスからの回復も早かったと報告されています。こうした研究結果からわかるのは、運動習慣があると、ストレス時のコルチゾール不足を防ぎやすくなるということなので、欧米の患者さんたちが日頃から運動を生活に取り入れているのも、理にかなった対策ですね。
運動時のコントロール方法
副腎皮質機能低下症の方は、アドレナリン(エピネフリン)がうまく出ない※1ため、たとえ運動時にコートリルを増やしても、血糖値が上がりにくかったり、力が出にくかったりすることがあり、複数の研究からも、そのことが確認されています(参考)。なので、「コートリルだけで体調を整える」ことには限界があり、事前に栄養で体を守る準備が欠かせないというのが、欧米の患者の中では常識になっています。
この特性を理解した上で、コートリルを増やすのではなく、運動前後にしっかりと栄養をとることで、日常生活の負荷やトレーニング中の不調を防ぐ工夫をされているので、大半の患者さんが自分の状態を「stable=安定している」と表現しています。
- アドレナリン(エピネフリン)は副腎髄質から分泌されますが、皮質機能低下症では連携の不調などから分泌が不十分になることがあるそうです
日常生活が「思った以上の負荷」になることも
副腎皮質機能低下症の方の多くは、回復のスタート地点が「ほとんど運動できていない状態」です。なので、上記の研究が示す通り、日常のちょっとした動作でさえ、体にとっては“運動”と同じくらいの負荷になってしまう可能性があり、それが体調の不安定さや、コートリルの慢性的な増量につながりやすくなってしまいます。
この状態で、「動いたらコートリル」「不調が出たらまた追加」と薬だけで乗り切ろうとしてしまうと、かろうじて残っていた“耐える力”すら失ってしまうだけでなく、上記で説明の通り、そもそもコートリルだけでは十分に補えないので、翌日以降の体調にも悪影響が出てしまうことがあります。
でも、欧米では運動時だけでなく日常生活でも、「不調が出たから追加する」のではなく、「動く前後に栄養を整えて、コートリルを増やさずにすむように備える」という考え方が主流なので、比較的安定して過ごしている患者さんが多くいらっしゃいます。
「追いコートリル」があるのは日本だけ
欧米では「日常に追いコートリル」なんて発想はそもそもなく、追加投与は発熱や旅行、明らかな体調異変など「非日常」や「緊急時」のときに限定した使い方で指導されています。実際に、国内のガイドラインでも、追加投与(stress dosing)は「感染症・発熱・外科的処置・外傷・重大な心理的ストレス」など明確なストレス時に限ると明記されています。
日本では、このような前提が十分に共有されておらず、「日常のちょっとした不調や疲労感」に対しても繰り返しコートリルを追加する習慣が、患者さんの間で勝手に広まってしまった経緯もあるようです。実際、その結果として慢性的に増量を続けざるを得なくなり、体調が安定しなくなったり、医師からのコートリルの処方が制限されるといったケースも多かったようです。
処方だけでは体調を維持できなくなった患者さんの一部では、やむを得ずステロイドを個人輸入して、主治医に伝えないまま自己判断で増量している方もいらっしゃいます。
「体を守るための準備」が重要
欧米の患者さんに、慢性的な増量で悩む人が少ない背景には、「薬を足すよりも、まず環境や栄養で守る」という発想が根付いているという点が、大きく関係しているように思います。
簡単に言うと、コートリルを増やす前に「体を守るための準備」ができているかどうかで、体調の安定度も、薬に追われる生活になるかどうかも、大きく変わってくるということだと思います。
ただし、一度「追いコートリル」に慣れてしまった体で、それを気合いだけでやめるのは現実的ではありません。まずは栄養状態を整え、負荷がかかる前に備えることで、不調の頻度や追加投与の必要性を少しずつ減らしていくことが大切です。そうすることで、本来の「緊急時のみの追加投与(stress dosing)」の使い方に近づけていくことができるのかもしれません。
参考資料
The HPA axis response to stress in women: effects of aging and fitness
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15694119/
Hypothalamic-Pituitary-Adrenal Axis Response and Recovery from High-Intensity Exercise in Women: Effects of Aging and Fitness
https://academic.oup.com/jcem/article-abstract/89/7/3248/2844207
欧米のコミュニティや患者さんが執筆した書籍では、具体的で実践的な知恵がたくさん紹介されています。このブログでは、そのなかから「病院では教えてもらえない工夫」を学び、自分でも試して効果を感じられたこと、そして病気のメカニズムに関する理解を深めた内容を記録しています。
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