Misc普通に見えるのは逆効果?

私は、副腎皮質機能低下症という、体内で必要なホルモンがうまく分泌されなくなる病気とともに暮らしています。一見、普通に見えるけれど、実は日常生活を送るだけでも綱渡りのように気を張らなければならない日もあります。そんな中で、「元気そうなのに」「普通に見えるのに」という言葉が投げかけられると、それは無意識の偏見(unconscious bias)によるものなのかもしれない、と感じることがあります。

無意識の偏見(unconscious bias)とは

人は視覚から多くの情報を受け取ります。そして、「その人らしい見た目」や「典型的な振る舞い」に基づいて、無意識のうちに相手を判断してしまう傾向があります。たとえば、「長い髪=女性らしい」「健康そうな見た目=病気じゃないはず」というように。副腎皮質機能低下症のような、見た目に現れにくい病気では、こうした偏見がより顕著にあらわれます。

見た目とのギャップ

体調が悪いときでも、人と会うときはなるべくきちんとした格好をしますし、表情にも気を配ります。それは、相手に心配をかけたくないからだったり、自分なりの社会とのつながりを守りたいからです。でも、そうやって「普通に見える」ことが、時には逆効果になることがあります。「大丈夫そうじゃん」「そんなにしんどいなら、もっと具合悪そうにしてるはず」といった反応につながりやすく、見た目と実際の状態とのギャップから誤解が生まれてしまうこともあるのです。

病気っぽくない生活への誤解

副腎皮質機能低下症と診断されていても、日常生活の中で「メイクをする」「外食を楽しむ」「旅行に行く」「軽い運動やストレッチをする」といった行動を選ぶことがあります。こうした行動は、調子がいい日や「自分らしさ」を保つための工夫であり、特に軽い運動は、合併症を防ぎ、予後を安定させるための唯一の手段です。

ただ、健康な人のようにいつでも運動できるわけではなく、必ず食後1時間の血糖値が安定したタイミングを選びます。運動中はスポーツドリンクで電解質を補給しながら、心拍数や運動時間を常に確認し、終了後にはしっかりと栄養補給を行うなど、慎重な準備と管理が欠かせません。こうした対策を怠ると、体への負担が蓄積され、回復力の乏しい体では、体の色々な場所に不具合が出るだけでなく、重い場合は副腎クリーゼのような深刻な状態に陥る可能性もあります。

それでも、「そんなことできるなら元気なのでは?」「自己管理が甘いのでは?」といった目で見られてしまうことがあります。

医療の現場での誤解

実は、こうした偏見は、医療の現場でも存在します。血液検査が基準値に入っていれば「異常なし」とされる。訴えている不調が数値に表れていなければ、「気のせい」「自律神経の問題かも」と片付けられることもあります。でも、慢性的なホルモン疾患では、日々の体調は波があり、採血のタイミングで全てがわかるわけではありません。

周囲にどう伝えるか

こうした見えづらい不調を、周囲にどう伝えるかも大切なテーマです。私は最近、「スマホの充電」をたとえに使って、自分の体調を説明しています。

「私の体は、病気の影響で30〜50%ほどしか充電できません。朝起きてみないと、どれぐらいチャージされているかわかりません。もし今日が30%の日なら、予定には参加できても、そのあとで体調を崩してしまい、大変なことになってしまう可能性もあります」と、プリントしたこの資料を見せて説明しています。

そんなふうに説明すると、少しずつですが理解してくれる方が増えてきました。自分の状況を、相手に伝わる言葉で伝えることの大切さを、あらためて感じています。

まとめ

慢性疾患と向き合うということは、体調と折り合いをつけるだけではなく、こうした社会とのギャップや、見えない偏見とも静かに向き合いながら、歩調を合わせていくことなのかもしれません。

病気は簡単には治らないし、社会もすぐには変わりません。そんな現実と向き合いながら、自分なりに工夫し、無理のない形で折り合いをつけていく――それもまた、「病気に負けない」ということの、ひとつの形なのかもしれません。

2025.5.27 掲載