Hint甘草とコルチゾール
副腎皮質機能低下症の補充療法でコートリルを飲んでいるときに、「甘草の入った漢方薬」を併用すると、コルチゾールの分解が抑えられて、コートリルの効果が強く出すぎたり、不調が出ることもあります。これは患者の間でもよく知られていて、実際に研究でも報告されている作用です。(参考:甘草とグレープフルーツ)
私の場合は、最初は動悸が出て気づきました。でも、コートリルを頓服で使うようになってからは、同じ漢方を飲んでも動悸や不調は出なくなったので、「甘草そのものの影響」というより、ステロイドと一緒に飲んだことで効きすぎていたんだと思います。
甘草とコートリルの関係
甘草(グリチルリチン)には、コートリルの作用を強めてしまうことがあります。これは、11β-HSD2(11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素タイプ2)という酵素の働きを甘草が阻害してしまうためです。
この酵素は本来、活性型コルチゾールを非活性型のコルチゾンに変えて体外に排出し、血中のコルチゾール濃度を整えています。ところが甘草を摂ると、この酵素の働きが弱まり、コルチゾールの分解が抑えられます。その結果、血中のコルチゾール濃度が高く保たれ、「実質的にコートリルを増量した状態」になることがあります。
起こりやすい症状
- 動悸・不眠・血圧の上昇・むくみ(コルチゾール作用の増強による)
- 偽アルドステロン症(浮腫・高血圧・低カリウム血症・四肢の脱力・痙攣・こわばり・筋力低下など)
よくあるパターン
- 甘草入りの漢方を飲み始めてから動悸がする
- コートリルの量は同じなのに不眠や不調が出る
- むくみやすくなった、血圧が高めになった
- 夜中や朝方に足がつる(こむら返り)
- コートリルが長持ちするように感じる
- 漢方を飲んでいるときだけ調子が良い
- やめるとコルチゾールが足りない体感になる
こうした症状があるときは、漢方・サプリ・お茶・食品・日用品などに甘草が入っていないか確認してみると、解決のきっかけになることがあります。甘草を使わない似た処方の漢方薬もあるので、私はそれに切り替えて乗り切って過ごしました。また、普段から食品や日用品は必ず原材料表示を見て、甘草が入っていないかチェックしています。
回復期に甘草を使うリスク
回復期の体調管理として「天然成分で体に優しそうだから」と甘草入りの漢方やサプリを試す方もいますが、経口ステロイドと同じように副腎の働きを抑えるリスクがあります。
主な理由
- HPA軸を間接的に抑える
甘草は11β-HSD2を阻害し、体内のコルチゾールが長く活性型のまま残ります。その結果、脳や下垂体が「足りている」と勘違いし、ACTH(副腎刺激ホルモン)の分泌が減って、自前の分泌が戻りにくくなることがあるそうです。 - 成分量や効果が安定しない
医療用ステロイドと違って、甘草の成分量や吸収には個人差や製品差があり、微調整が必要な離脱期には不向きです。 - 副腎不全と紛らわしい症状
甘草は偽アルドステロン症を起こしやすく、血圧上昇や低カリウム血症などの症状が出ます。これらは副腎不全の不調とよく似ていて、判断を誤らせるだけでなく、重い電解質異常を招くこともあります。しかも一度発症すると、数週間〜数カ月、場合によっては何年も改善しないこともあります。
「甘草で元気になった」と感じるのは、多くの場合、抗炎症作用や血圧上昇、水分・ナトリウム保持による一時的な変化で、症状が改善したわけではなく、病的な状態が隠れているだけということも少なくありません。実際、漢方専門医も、甘草の入った処方を長期間飲み続けることを前提にはしていない場合がほとんどです。
回復期に甘草を代用・併用すると、副腎抑制や電解質異常などのリスクから回復が遠のくことがあるので、ステロイドそのものだけでなく「ステロイド様の作用を持つもの」も避けるほうが近道と考えられています。実際、そうしたものを避けている方々は、良い経過をたどっているケースが多いです。
参考資料
甘草には「副腎皮質ホルモンのような作用」があり、11β-HSD2という酵素を邪魔してコルチゾールの分解を抑え、そのコルチゾールがミネラルコルチコイド受容体を刺激することが偽アルドステロン症を起こす主な仕組みと考えられています。
https://www.philkampo.com/pdf/phil79/phil79-05.pdf
偽アルドステロン症は、コルチゾールが代謝されずにミネラルコルチコイド受容体(MR)へ作用することで発症します。甘草に含まれるグリチルリチン酸は、この代謝に関わる11β-HSD2酵素を阻害するため、結果的にコルチゾールがMRを活性化し、アルドステロン過剰時と似た症状(高血圧・浮腫・低カリウム血症など)を引き起こします。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/96/4/96_805/_pdf
ラットに甘草を経口投与し、HPA軸(視床下部−下垂体−副腎)への影響を検討した結果、コルチゾール、ACTH、アルドステロン、血清カリウムは用量依存的に低下し、ナトリウムとレニンは上昇しました。この結果から、甘草は経口ステロイドと同様に副腎の働きを抑制するリスクを持つ可能性があると考えられます。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0278691502000807
厚労省の「偽アルドステロン症の対応マニュアル」には、生薬の甘草を1〜2g/日含む医療用漢方薬でも発症することがあり、ヒドロコルチゾンも併用注意とされています。
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1019-4d9.pdf
甘草はコートリルの作用に影響する可能性があるため、最新の副腎不全の論文や専門書、大手医薬品情報サイトでも併用を避けるよう呼びかけられています。
https://www.drugs.com/npp/licorice.html
ツムラの「偽アルドステロン症」資料では、発症者の42%が服用開始から1年以上経ってから発症し、回復できたのは60%。回復までに数週間〜長期間かかることがあり、中止してもすぐ治らないケースもあります。副腎皮質ステロイドとの併用注意も明記されています。
https://medical.tsumura.co.jp/themes/custom/pharma/pdf/products/safety/PSA.pdf
また、コンビニのおにぎりやお菓子にも甘草が入っていることがあり、知らないうちに摂りすぎて偽アルドステロン症になることもあります。漢方薬だけでなく、日常の食品にも注意が必要です。
https://x.com/YAMANAO_kaigi/status/1647985903342874624
欧米のコミュニティや患者さんが執筆した書籍では、具体的で実践的な知恵がたくさん紹介されています。このブログでは、そのなかから「病院では教えてもらえない工夫」を学び、自分でも試して効果を感じられたことを記録しています。副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する情報は「Note」へ、参考になった情報は「Hint」へ、その他の情報は「Misc」にまとめています。読んでくださった方が、自分なりの工夫を見つけるヒントになればうれしいです。
※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解です。