Note第13回市民公開講座 国内

2024年12月15日(日)10時から、オンラインで行われた第13回市民公開講座(主催:副腎ホルモン産生異常に関する調査研究班)を視聴しました。その中から、コルチゾール補充療法と回復に関する部分を中心にまとめてみました。

コルチゾールは生存に欠かせないホルモンですが、過剰でもさまざまな健康リスクを引き起こします。この講演では、「コートリルが少しでも多めの状態が長く続くと副作用になる」「多いとクッシング症候群、足りないと副腎不全になる」という事が繰り返し強調されていました。

主な内容は「クッシング症候群」「補充療法」「副腎クリーゼの実態と注意点」で、その中からコルチゾールが過剰な状態による具体的な影響や、可逆的なケースの場合の機能回復に要する期間とその影響要因について理解を深めることができました。

過剰によるリスク

コルチゾールは生存に欠かせないホルモンですが、過剰になるとクッシング症候群や糖尿病、骨粗鬆症などのリスクを引き起こします。例えば、コルチゾールの増加は食後血糖値を上昇させ、糖尿病を発症させる可能性がありますが、早朝血糖が正常に保たれるケースも多いそうです。そのため、診断には空腹時血糖値だけでなく、HbA1cや食後血糖値を含めた総合的な評価が必要です。

また、過剰なコルチゾールは骨密度を低下させ、骨折のリスクを高め、体重増加や高血圧、筋力低下など、全身に負担を与えることもあります。これらのリスクを回避するためには、適切な補充量の管理が重要です。

ステロイド糖尿病の特徴
  • インスリン抵抗性が主因:長期にわたる場合、インスリン分泌の低下が加わることもある。
  • 食後血糖値の上昇:通常のコルチゾールの日内変動から乖離がみられ、特に午後に血糖が高くなる傾向がある。
  • 早朝血糖値の維持:早朝血糖は比較的正常範囲に保たれることが多い。

ステロイド糖尿病の特徴

ステロイド糖尿病を長期的に放置すると、インスリン分泌能力の低下により慢性糖尿病へ進行する可能性があり、コルチゾール補充が過剰な場合にもクッシング症候群と同様に糖尿病のリスクが高まります。そのため、病気を増やさないためにも、適切な補充量の管理や定期的な血糖値・骨密度のチェックが大事だと感じました。

回復について

クッシング病やクッシング症候群で抑制された副腎機能の回復は、HPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)の抑制期間に大きく依存します。特に、24時間持続してHPA軸が抑制されていると、副腎不全の期間が長くなると考えられています。回復には通常数ヶ月から1年かかりますが、抑制期間が非常に長い場合、回復には最大10年かかるケースもあるそうです。

特に夜間のコルチゾールが高い状態が続くと、回復を妨げる可能性があります。そのため、夜間にコルチゾールを一旦切らすことが推奨されています。また、採血でACTHやコルチゾールを評価する際には、採血時間・ステロイド製剤の作用時間・交差反応・測定方法による誤差に注意が必要です。

気が付かないうちに副腎機能が抑制されているケース(注射・内服・外用・吸入・点眼・点鼻・その他の可逆的な原因)でも、クッシング症候群からの自然回復と同じ要領で回復するので、その機会を逃さないためにも、慎重な評価と管理がとても重要だと感じました。

補充療法について

国内で一般的に使用されるヒドロコルチゾン製剤(コートリル)は、プレドニゾロン製剤(プレドニン)に比べて代謝合併症が少ないとされています。他のステロイドに比べれば影響は少ないものの、コートリルもCYP3A4(薬物代謝酵素)に影響を与えるため、補充量の調整には考慮が必要です。

プレドニンは検査方法によってコルチゾール値に10~30%の交差反応を引き起こす(血清コルチゾール値の数値として見える)ため、コルチゾール値を評価する際には注意が必要です。

補充療法を行う際には、コルチゾールが本当に不足しているのか、それとも単に疲労が原因なのかを慎重に見極めることが必要です。

補充量が不十分な場合は、副腎不全を引き起こし、CRPの上昇や炎症反応の悪化、好中球の低下、リンパ球や好酸球の上昇などがみられ、免疫系のバランスが崩れることで感染症リスクが高まります。一方で、補充が過剰な場合には、クッシング症候群のリスクが高まるだけでなく、血糖値が特に食後に著しく上昇しやすく、体重増加といった過剰症状が現れやすくなります。このように、不足や過剰のどちらも体調悪化につながるため、適切な補充量の管理が重要です。

コートリルの特徴
  • 夜間に薬剤が切れる時間帯があるため、副腎不全になりにくい
  • 生理的なコルチゾールのリズムを再現しやすい
  • 服薬スケジュールの遵守が必要
測定値の見方
  • 内服後6時間くらいまで:コルチゾール測定値 ≒ 内服したヒドロコルチゾンの血中濃度
  • 内服後12時間以上経過した場合:コルチゾール測定値 ≒ 自己の内因性分泌

適切な補充量は人それぞれですが、1番大事なポイントは、不調が本当にコルチゾール不足なのかを見分ける事で、その為の手がかりを学ぶ事ができました。

副腎クリーゼについて

副腎クリーゼは、急性の副腎不全による全身状態の悪化を指します。ただし、その定義は非特異的で曖昧なため、明確に診断できない場合もあります。疑わしい症状がある際は、安全を優先し、迅速に対処することが重要です。

副腎クリーゼを疑う症状
  • 消化器の症状:繰り返し吐き続ける・おなかが激しく痛む
  • 神経の症状:意識がもうろうとする・けいれんする
  • 循環の症状:脈が弱く触れにくい・血圧がいつもより極端に低い
  • 全身の症状:いつもの内服薬を飲めない・ひどくぐったりする

この講演で言及されたストレス時のコルチゾール投与に関する内容は、「21-水酸化酵素欠損症の診断・治療のガイドライン(2021年改訂版)」を基準に、維持量の3〜4倍か50〜100mg/㎡/dayの追加が必要※1と定義されていました。

資料[出典]21-水酸化酵素欠損症の診断・治療のガイドライン(2021 年改訂版)

  1. コルチゾールの血中濃度が16~18μg/dLを超えると、コルチゾール結合グロブリン(CBG)が飽和状態になり、それ以上吸収されずに余分なコルチゾールが速やかに排出されてしまうという理論があり、実際に飽和するかもしれませんが、危険が伴うため比較研究がされていないので、安全重視で多めに投与することになっているそうです。
新薬について

徐放型ヒドロコルチゾンは、コルチゾール補充療法の新しい選択肢として、大きな期待が寄せられています。コートリルは、自然のコルチゾールと近いものの、どうしても異なる部分があるため、作用時間やリズムの調整が課題とされてきました。一方で、徐放型ヒドロコルチゾンは、コルチゾールの日内リズムを自然に近い形で再現できるため、生活の質の向上やより安定したホルモン管理が期待されています。

この製剤はすでに国内で成人を対象とした治験が行われており、今後数年以内に利用可能になる可能性があります。日本国内での承認と普及が進むことで、より多くの患者がその恩恵を受けられることが期待されます。

Q&A

Q. コルチゾール補充療法を行っていて、食後高血糖になっています。
適切な補充が出来ている場合には、過度に神経質になる必要はありませんが、甘い飲み物やフルーツを控えめにし、糖尿病患者と同じようにバランスの取れた食事や血糖値の管理を心がけることが大事です。また、定期的に血糖値(空腹時血糖・HbA1c・食後血糖)をモニタリングし、主治医と相談しながら適切な補充量を見直すことが重要です。

Q. 感染症や外科的処置時に通常の3~4倍のコルチゾール追加は、コルチゾール結合グロブリン(CBG)の飽和を考慮すると多いように感じます。先天性の場合と後天性の場合で違いはありますか?
シックデイのカバーは、先天性か後天性かではなく、症状の重さに応じて判断されます。CBGが飽和して余分なコルチゾールが排出されている可能性はありますが、危険が伴うため比較研究が少ないので、緊急時は安全を優先して3~4倍などの多めに投与することが推奨されています。

Q. 補充療法でコートリルの持ちが悪く、毎日30~40mg以上飲まないといけない状況です。併用薬がコートリルや他のステロイドの代謝に影響を与えている可能性はありますか?
その可能性はあります。併用薬がコートリルや他のステロイドの代謝を促進しているケースも考えられるため、必ず主治医に相談してください。コートリルの利用能は個人差が大きいため、適切な補充量を調整することが重要です。

Q. 夜勤がある場合、どのように調整すればよいですか?
夜勤がある場合でも、睡眠中にコルチゾールが低下するリズムを維持することが重要です。起きている間はコルチゾールの補充が必要なので、寝る時間に合わせて服用スケジュールを調整し、睡眠中にコルチゾールの作用が減るようにします。


国内外の情報や論文・コントロール良好な方の体験談などから見つけた情報を集めています。副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する事は「Note」へ、体験談やヒントなどは「Misc」に記録しています。

※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解である事をご了承ください。