Mind情報共有と多様性

欧米の副腎皮質機能低下症のアスリートコミュニティ(2024年11月現在4,300人以上在籍)では、この病気を抱えながらも適度な運動を習慣にして、予後やQOLの向上を目指す人々が集まっています。歩くのがやっとという方から、ランニングを楽しむ方、さらにはフルマラソンを完走する方まで、多様なレベルのメンバーが在籍し、活発に情報交換を行なっています。

欧米では、「歩くのがやっとの人の気持ちを配慮して、フルマラソンの情報発信は控えてほしい」という要望が投稿されることはありません。一方、日本では、「歩くのがやっとの人の気持ちを配慮して、運動が得意な人の情報発信は控えるべきだ」というような意見を耳にすることがあります。

私はこの病気になってから、闘病日記や欧米のコミュニティで得た情報を発信し続けてきました。2022年頃には、薬の見直しや生活改善が功を奏し、コートリルの減薬に成功したことを投稿しました。しかし、その投稿をきっかけに、同じ病気を抱える一部の方々から批判や攻撃を受けるようになりました

おそらく、副腎皮質機能低下症では維持量を減らすことが難しい人が大多数であるため、減薬について触れること自体がタブー視されていたのかもしれません。ただ、欧米のコミュニティでは減薬や投薬調整についての議論が日常的に行われていたので、日本の情報環境がこのようにガラパゴス化している現状を、私は黙って見過ごすことができませんでした。


この病気には「回復しない人」と「回復できる人」がいます。しかし日本では、「回復しない人の気持ちを配慮して、回復できる人のための情報発信は控えてほしい」という圧力が依然として根強く残っています

もちろん、その気持ちは十分に理解できます。しかし、少数派である「回復できる人」が必要な情報を得られない情報の場というのは、本来の役割を果たしていないのではないでしょうか。「回復しない人」と「回復できる人」、どちらにとっても有益な情報が共有されることが大切だと思っています。

例えば、「ペットロスした人の気持ちに配慮して、ペットと暮らしている人のライフスタイルを発信するのは控えるべきだ」とか、「ヒールを履けない人の気持ちに配慮して、ヒールを履いて出かけるライフスタイルを発信するのは控えるべきだ」といった意見があったとしても、多くの人は「興味がないなら見なければ良い」「気になるならフォローを外せば良い」と受け止めるのではないでしょうか。

情報の共有は、多様な立場の人にとって意義のあるもので、それぞれが自分に必要な情報を自由に選び取れる場であるべきだと、私は考えています。


この病気になる前、私は毎日運動する習慣があり、ジムでのトレーニングを投稿していました。しかし、知人から「運動していない自分がダメ人間のように感じるので不快だ」と言われたことがあります。それでも、発信を控えるのは違うと考え、情報発信を続けました。数年後、日本でも多くの女性がジムに通い、「ボディメイキング」が広く知られるようになり、トレーニング動画を発信するようになりました。その頃には、運動の発信が「特別なこと」ではなくなり、異なる価値観が自然に共存する時代へと変化したと感じました。

これからも、私は自分が置かれている状況をテーマに、日々の学びや気づきを記録していきます。他の人の情報を見るときは、「人と比べるのではなく、参考にする」という視点を持つことが大切だと思います。それでも、どうしてもポジティブに受け取れない場合は、「フォローを外す」「ミュートする」「ブロックする」といった便利な機能を活用して、自分に必要な情報だけを選び取る工夫をしてみてください。

私の願いは、いつか日本でも「回復できる人」のための情報や、「予後やQOLの向上を目指して運動を習慣にする副腎皮質機能低下症のライフスタイル」の情報発信が、特別視されることなく、当たり前に受け入れられる時代が訪れることです。また、「回復できる人」のための情報を発信したいのに、配慮を求められる雰囲気の中で控えている方々の貴重な情報が、自由に共有される時代になってほしいと心から願っています。

2024.10.19 掲載