甘草とコートリルの相互作用

「甘草はコートリルの作用を強めることがある」そんな話を聞いたことがある方もいるかもしれません。実は、この話は単なる噂ではありません。

2011年、Husebye先生らは、アジソン病患者17名を対象に、甘草やグレープフルーツジュース(GFJ)が補充療法にどのような影響を与えるかを調べた臨床研究を発表しています。対象はコルチゾン酢酸エステルによる補充療法を受けている患者さんで、通常どおり薬を飲んだ場合と、3日間甘草またはグレープフルーツジュースを併用した場合を比較しました。

甘草は、1日24gのリコリス製品(グリチルレチン酸150mg相当)を、1日の中で分けて摂取しています。甘草を併用すると、血清コルチゾールAUC(0〜2.6時間)が有意に増加、服用2.6時間後の血清コルチゾールも有意に増加、尿中コルチゾール/コルチゾン比は約2倍に上昇という結果になりました。

また、服用160分後のACTHも、通常の70.7pmol/Lから、甘草併用時には60.1pmol/Lへ低下する傾向がみられました。

論文では、甘草は組織で利用されるコルチゾールを増加させた(Licorice increased cortisol available to tissues.)と結論づけています。つまり、飲んでいる薬の量は同じでも、体が受けるコルチゾール作用は強くなることが確認されました。

「効きやすくなる」ことは、本当に良いこと?

一見すると、「同じ量でよく効くなら、その方がいいのでは?」と思うかもしれません。でも、補充療法はそう単純ではありません。副腎皮質機能低下症では、「必要最低限」の量を補充しながら、その人に合った量を細かく調整していきます。そこへ甘草が加わると、同じ量を飲んでいても、実際に体が受けるコルチゾール作用が変わってしまう可能性があります。つまり、補充療法そのもののコントロールが難しくなるということです。

実際、この研究の著者らも、長期的な影響が分かっておらず、甘草やグレープフルーツジュースの摂取量を一定に保つことも難しいため、補充療法への併用は勧められないと書いています。

その後は「避けるべき」と、さらに明確に整理している

興味深いのは、この研究を行ったHusebye先生らが、その後に発表した副腎皮質機能低下症のコンセンサスステートメントで、甘草とグレープフルーツジュースはヒドロコルチゾンのミネラルコルチコイド作用を増強するため、避けるべきである。(Liquorice and grapefruit juice potentiate the mineralocorticoid effect of hydrocortisone and should be avoided.)と記載していることです。

しかも、この記載の根拠として引用されているのが、この2011年の研究です。

つまり、「甘草でコルチゾール作用が強くなることが分かった。だから利用しよう。」ではなく、「コルチゾール作用が変わってしまうことが分かった。だから補充療法では避けた方がいい。」という考え方に整理されています。

この考え方は現在も引き継がれており、Hindmarsh教授の副腎皮質機能低下症の専門書でも、甘草やグレープフルーツはヒドロコルチゾンとの相互作用があるため併用を避けるよう記載されています。

私が思うこと

SNSでは、「甘草が入っている漢方薬をコートリルに併用したら調子が良くなった」という体験談を見ることがあります。もちろん、その方にとって体調が良く感じたこと自体は事実だと思います。でも、この研究を見ると、一時的に体調が良く感じたとしても、それは体が回復したからとは限りません。甘草によって、体が受けるコルチゾール作用が強くなっていた可能性も考えられます。

また、この研究はACTHがもともと高いアジソン病患者を対象にしています。それでも甘草併用時にはACTHが低下する方向の変化がみられました。続発性副腎皮質機能低下症で、ACTHや副腎機能の回復を待っている人に同じことが起きるのかは分かっていません。ただ、外から受けるコルチゾール作用が強くなれば、ACTHが抑えられる方向に働く可能性はあります。

副腎皮質機能低下症の補充療法は、「効けばいい」という治療ではなく、「必要最低限で、生理的な状態に近づける」ことを目指す治療です。少なくとも私は、この結果を見て、回復途中に甘草をあえて併用しようとは思いませんでした。

出典


※この記事で紹介している文献や論文は、情報が乏しいこの病気において、改善の糸口を探るために部分的に参考にしたものです。あくまで個人の体調管理のヒントとして活用した記録なので、医学的な普遍性や効果を保証するものではないことをご理解ください。

2026.7.10 掲載

読んでくださった方が、自分なりの工夫を見つけるヒントになればうれしいです。
医療に関する判断を行う際は、必ず医師にご相談ください。