参考にしている文献

Vaidyaの総説(2025年6月)

JAMA誌に掲載されたAnand Vaidya(ハーバード大学・Brigham and Women’s Hospital所属で、副腎疾患センターの所長を務める内分泌専門医)による総説「Adrenal Insufficiency in Adults: A Review」では、原発性・続発性・グルココルチコイド誘発性の3つに分けて、副腎不全の診断・治療・管理の全体像がわかりやすく整理されています。特に、ステロイド誘発性副腎不全については、副腎機能の回復の可能性、減薬の進め方、診断後の経過や予後に至るまで、実臨床で重要となるポイントが豊富なデータとともに丁寧に解説されており、今の体調や治療方針を整理・見直すうえでも、大きなヒントになる1本だと感じました。

DHEA-Sによる副腎機能評価の可能性(2025年2月)

米国の医療専門メディアHealioに掲載された記事「DHEA-S may serve as biomarker for diagnosing adrenal insufficiency」では、DHEA-S(デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩)の血中濃度が、副腎皮質機能低下症の診断を補完するバイオマーカーとして有用である可能性が示されています。通常のコルチゾールやACTHの測定に加え、DHEA-Sが低値を示す場合には、副腎の予備能低下を早期に捉える手がかりになると考えられています。

欧州・米国合同の臨床実践ガイドライン(2024年5月)

European Society of Endocrinology(欧州内分泌学会)とEndocrine Society(米国内分泌学会)が共同で作成した臨床実践ガイドライン「Diagnosis and therapy of glucocorticoid-induced adrenal insufficiency」では、ステロイド誘発性副腎皮質機能低下症の診断・治療・経過観察について、最新のエビデンスが体系的に整理されています。 テーパリングの基本的な考え方、朝のコルチゾール値を使ったHPA軸回復の判断、吸入・外用・関節注射など非経口ステロイドでも抑制が起こり得る点がまとめられており、可逆的な副腎皮質機能低下症の減量を考える際にも全体像を整理するうえで参考になる内容だと思いました。

Hindmarshの専門書(2024年3月)

欧米のコミュニティで話題になっているPeter C. Hindmarsh(ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ病院の小児内分泌学教授で、副腎不全の補充療法に関する長年の研究と臨床経験をもつ専門医)とKathy Geertsma(患者家族)の副腎不全の補充療法の書籍「Replacement Therapies in Adrenal Insufficiency」には、2024年3月時点で最新の情報から、原因・メカニズム・補充療法・薬物相互作用・副作用・緊急時の対応などの情報が、病状別(アジソン病・下垂体機能低下症・先天性副腎低形成・副腎摘出)に解説されています。

ACTH分泌低下症の診療ガイドライン2023年版(2023年7月)

日本内分泌学会誌「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」では、「ACTH分泌低下症の診断と治療の手引き」が改訂され、診断から治療・予後までの詳細が整理されています。診断では、吸入薬や点眼薬を含むステロイド薬の影響を除外することが明記されています。治療については、ヒドロコルチゾンとして5〜10mg/日から開始し、1〜2週ごとに経過を観察する方法が推奨されています。また、ACTH分泌低下症の患者ではヒドロコルチゾンの過量投与によって死亡リスクが上昇する可能性が報告されており、5〜20mg/日以内での維持が推奨されています。

補充療法の漸減アプローチ(2023年6月)

補充療法における最適投与量をテーマにした「Daily Glucocorticoid Replacement Dose in Adrenal Insufficiency」では、過剰投与と不足の両側面から、より現実的な補充量を探る考え方が紹介されています。体重や体表面積だけでなく、炎症・代謝・活動量・ストレス応答など個人差を踏まえた調整が推奨されており、離脱症状と副腎不全症状を見極めながら段階的に漸減する方法が解説されています。また、部分的二次性副腎不全(partial secondary AI)に対しては、ヒドロコルチゾンを0〜10mg/日程度とする可能性が示されており、残存する副腎機能に応じた柔軟な補充の重要性が提案されています。

Husebyeの総説(2021年2月)

現在の内分泌学会のガイドラインの服用量(単純に体重換算や体表面積換算から算出)は、原発性副腎皮質機能低下症をベースに作成されている事から、原発性と続発性の両方を考慮したEystein S Husebye(ノルウェー・ベルゲン大学の内分泌専門医で、欧州の副腎不全研究を長年牽引してきた研究者)の副腎不全の論文「Adrenal insufficiency」を元にしたガイドラインを取り入れて治療しているケースが増えているそうです。最新の理論にご興味ある方は購入(Academic & Personal: 24 hour online accessUSD $39.95+ applicable tax)して読む事が可能です。

運動前の増量について研究(2015年10月)

原発性副腎不全(アジソン病)の女性患者を対象に、運動前にヒドロコルチゾンを追加投与しても運動能力が向上するかを検討した研究「Effect of a pre-exercise hydrocortisone dose on short-term physical performance」では、結果として明らかな効果は認められませんでした。 むしろ、運動前にコルチゾールを補充した場合の方が、運動後にコルチゾールが大幅に低下し、開始時よりも低くなる傾向がみられたと報告されています。短時間の運動では、増量よりも日頃から栄養状態を整え、エネルギーの土台を安定させておくことが大切だと考えられています。

吸入ステロイドと副腎抑制の報告(2015〜2021年)

ロイター通信の報道「Common asthma steroids linked to side effects in adrenal glands」では、吸入ステロイド(特にフルチカゾン)を使用している喘息患者で、副腎機能抑制などの副作用が報告されていることが紹介されました。 また、研究「Inhaled corticosteroid related adrenal suppression detected by poor growth and reversed with ciclesonide」では、フルチカゾンによる副腎抑制が小児の成長遅延として現れ、シクレソニド(オルベスコ)への切り替えで改善したと報告されています。薬理学的には、肺で活性化されるプロドラッグ型の吸入ステロイド(シクレソニドなど)は全身への曝露が少なく、HPA軸への影響も比較的軽いと考えられています。

ACTH刺激試験でみる回復予測(2018年5月)

副腎・HPA軸の回復の可能性を検討した研究「The Short Synacthen (Corticotropin) Test Can Be Used to Predict Recovery of Hypothalamo-Pituitary-Adrenal Axis Function」では、可逆性のある原因によるHPA軸(視床下部ー下垂体ー副腎)機能低下(=副腎不全を含む)がある患者群を対象に、短時間ACTH刺激試験(250 µg SST)による0分・30分コルチゾール値およびその“増分(deltaコルチゾール)”が「将来的にHPA軸機能が回復するか否か」を予測し得るかを検討しています。

コートリル10mgの血中反応(2015年9月)

日本内分泌学会誌「Vol.91 Suppl. Sep. 2015」では、ヒドロコルチゾン10mgを投与した際の血中コルチゾール濃度の変化が報告されています。絶食時では最大36μg/dLまで上昇し、体重換算による投与量(約0.12 mg/kg)に比べて高値となることが示されました。食後投与では上昇が穏やかで、個人差も小さい傾向があり、吸収タイミングの違いが血中濃度に大きく影響することが示唆されています。

至適補充量を模索する動き(2008年4月)

日本内科学会誌に掲載された総説「副腎皮質機能低下症の診断と治療」では、日本で一般的に用いられている補充療法量(原発性で20mg、続発性で15〜20mg)が、理論値よりやや多い傾向にあると指摘されています。体重換算や日内リズムに基づくきめ細かな補充が理想とされつつも、剤型の制約から現時点では十分に再現できていないと述べられています。今後は、個々の患者の代謝や生活リズムに合わせた、より生理的な補充量の設定が求められると考えられています。

コルチゾールに影響する薬・成分(2008年3月)

Pituitary誌の総説「Drugs and HPA axis」(Ambrogio AGほか, 2008)およびFriedman博士のまとめ「Drugs and Cortisol」によると、CYP3A4を誘導・阻害する薬剤や食品、CBGを変動させる要因がコルチゾール濃度に影響することが知られています。補充療法中や検査前は、代謝酵素や結合蛋白の影響を考慮し、服薬・サプリメントの確認を行うことが推奨されています。

患者が執筆した書籍

Kindleで購入できる副腎皮質機能低下症の本を読んで参考にしました。

コミュニティの情報

この病気と上手く付き合って行く為に、欧米の副腎皮質機能低下症コミュニティ(実名制・内分泌医と研究者も所属・入会条件あり)の、複数の副腎皮質機能低下症のグループ・続発性限定のグループ・論文研究ディスカッションのグループ・アスリート(運動する人)のグループ・女性限定のグループ・テーパリングのグループなどから情報収集して、メカニズムに関する情報は「Note」へ、参考になった情報は「Hint」に記録しています。

※2025年12月現在、欧米の副腎皮質機能低下症のコミュニティには約16,000人が登録されており、運動を習慣にしている方は約5,100人、回復を目指して減薬に取り組んでいる方は約1050人、調整・減薬に取り組んでいる方は480人、論文ディスカッションに参加している患者・医師・研究者は約1,090人いらっしゃいます。

国内の最新情報

タイムラグがある様ですが、欧米で主流になっている治療法や対処法は、可能な限り国内でも適用になっている様です。

セミナーまとめ

第14回市民公開講座(2025.12.14)
下垂体ミニレクチャー(2025.07.27)
第5回大阪下垂体セミナー(2025.03.14)
令和6年度市民公開講座(2025.02.08)
第13回市民公開講座(2024.12.15)
オンライン医療講演会(2024.12.08)
下垂体ミニレクチャー(2024.07.07)
下垂体の市民公開講座(2024.03.16)

診断・治療ガイドライン

ガイドラインの補足文献(2024.06.13)
ガイドライン2023年版(2024.03.19)

その他、欧米の論文や研究からのヒントもあわせて参考にしています。
論文・総説の記事一覧

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