Hint効果的な食事法

欧米では、生活改善を通じて少量のコルチゾール補充で過ごせるようになったり、吸入ステロイドが不要になってHPA軸(視床下部-下垂体-副腎)の機能が回復したという体験談が多く共有されています。そうした方々がこぞって取り入れているのが、「糖質制限食(low-carb diet)」という食事法です。

では、なぜ「糖質制限食」がこれほど多くの患者さんに支持され、実際に効果を上げているのでしょうか。その理由を探ると、「ケトン体」と「マスト細胞」の働き、さらに血糖値の安定が深く関係している可能性があるようです。

喘息への効果

喘息は、気道の炎症や過敏反応が原因で起こる病気で、マスト細胞からヒスタミンやサイトカインといった炎症物質が放出されることで、気道が狭くなります。糖質制限をすることで生成されるケトン体には、この炎症物質の放出を抑える抗炎症作用が期待されていて、特に欧米の副腎皮質機能低下症と喘息を併発している患者さんの間で注目されています。また、糖質制限によって血糖値が安定することで、高血糖が引き起こす酸化ストレスが軽減され、気道を健康に保ち、喘息発作を減らす効果も期待されています。

副腎機能への効果

副腎皮質機能低下症は、限られたコルチゾールで体調をコントロールすることが必要です。糖質制限で生成されるケトン体は、コルチゾールが不足しているときでも安定したエネルギーを供給してくれるため、体への負荷が軽減されます。さらに、血糖値が安定することで低血糖のリスクが減り、ケトン体の抗炎症作用によって慢性的な炎症が抑えられるため、コルチゾールの消耗が抑えられます。その結果、必要最小限のコルチゾールでも体調を維持できるようになり、ステロイドの長期的な副作用を軽減する可能性があります。

糖質制限食とは
  • 糖質制限:パン・米・麺類・砂糖・甘いお菓子などの炭水化物を制限(糖質カットではなので適量を摂取)
  • タンパク質とオイル:肉・魚・卵・ナッツ・アボカド・オリーブオイルなど、良質なオイルを摂取
  • 低糖質の野菜:ブロッコリー・ほうれん草・キャベツなど、食物繊維が豊富な野菜を多く摂取

喘息と副腎不全は密接に関係しているので、コルチゾール値が不安定になると喘息が悪化し、その結果、ステロイドの投与量が増加して副腎機能が低下するという悪循環に陥ることがあります。この悪循環を断ち切るためには、コートリルの増量や他のステロイド治療以外の方法を試みることが必要です。

糖質制限食は、喘息の緩和や副腎皮質機能低下症の管理に役立つ低リスクな方法として注目され、多くの患者さんが減薬や回復に成功する中で取り入れています。

研究者や体験者の評価

欧米のコミュニティで話題になっている、Peter C. Hindmarsh(内分泌医)とKathy Geertsma(患者家族)の副腎不全の補充療法の書籍Replacement Therapies in Adrenal Insufficiency」(2024年3月29日に出版)では、糖質制限食や血糖値の安定がコルチゾール補充療法に寄与する可能性が示唆されています。

また、患者が執筆した書籍、Winslow E. DixonAdrenal Alternatives Foundationの「A Patient’s Guide to Managing Adrenal Insufficiency」(2020年4月出版)や、Elizabeth Grayの「The Adrenal Insufficiency Handbook」(2019年7月出版)にも、「砂糖・添加物・加工食品を控えた食生活が有効」「カフェイン・砂糖・添加物を避ける」「食べるものの質が大事」という内容が書かれています。

その他、さらに食事制限が厳しいケトジェニックダイエットも同じ原理で、Zone2トレーニングと同様に脂肪酸を燃料とする仕組みのため、一部の方の体調管理を劇的に改善しているそうです。

喘息と食生活の研究

喘息と食生活を調査した研究は複数あり、高脂肪・砂糖・焼き菓子・チョコレート・甘いデザート・キャンディー・塩味のスナック・ポテトチップス・フルーツジュース・砂糖入りの飲み物・アルコール飲料などが喘息に悪影響を及ぼすことが示された研究※1、バター・マーガリン・菜種油・ファストフード・甘い飲料はアレルギーや呼吸器の健康状態にリスクをもたらす可能性があるという研究※2、高脂肪食は喘息を悪化させる可能性があり、高繊維食は炎症を抑える効果が期待できるという研究※3が欧米の患者さんの参考になっていました。

塩と砂糖への欲求

副腎皮質機能低下症の患者には、血糖値やナトリウムバランスの不調が原因で、塩や砂糖を強く求める(salt cravingsugar craving)という症状が見られることがあります。本当に低血糖や低ナトリウムの状態で身体が必要としている場合を除き、欲求に任せて過剰に摂取すると、糖尿病や高血圧のリスクが高まるだけでなく、喘息や副腎不全の症状悪化を招く可能性があります。


このような情報を考慮し、食生活を改善して継続した結果、喘息発作の頻度が大幅に減少し、最終的には吸入ステロイドが不要となり、HPA軸の機能回復に至ったという体験談や、コートリルの減量に成功したという体験談が残されています。

ただ、食生活の改善で喘息が緩和しても、吸入ステロイドの断薬までは進めなかった場合でも、薬剤の変更や住環境の改善を組み合わせることで、状況が好転することもあるようです。(参考:吸入薬と住環境

参考資料

  1. Dietary patterns and asthma prevalence, incidence and control
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cea.12544
  2. Diet among Japanese female university students and asthmatic symptoms, infections, pollen and furry pet allergy
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18356034/
  3. Diet and airway inflammation
    https://www.nature.com/articles/nri3612

喘息を抑える新しいメカニズムの発見 – 東京大学
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/content/900006495.pdf

薬学部・佐藤陽准教授らがケトン体の抗アレルギー作用を発見 – 医療創生大学
https://www.isu.ac.jp/releases/detail—id-3220.html

2024.12.31 掲載

欧米のコミュニティや患者さんが執筆した書籍では、具体的で実践的な知恵がたくさん紹介されています。このブログでは、そのなかから「病院では教えてもらえない工夫」を学び、自分でも試して効果を感じられたこと、そして病気のメカニズムに関する理解を深めた内容を記録しています。
副腎皮質機能低下症のメカニズムに関する情報は「Note」へ、参考になった情報は「Hint」へ、その他の情報は「Misc」にまとめています。また、メッセージ経由でいただいた質問の一部は、「FAQ」にまとめています。
読んでくださった方が、自分なりの工夫を見つけるヒントになればうれしいです。

※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解です。