Hint副腎クリーゼの誤解 必読
副腎皮質機能低下症のブログなどでよく見かける「副腎クリーゼ」という言葉。でも、実はこの言葉、医師と患者で意味がズレて使われていることがあるみたいです。たとえば、「今日は軽いクリーゼだった」「盛大なクリーゼをおこした」「クリーゼおこしまくった」といった表現です。そのつらさは本物でも、医学的には“副腎クリーゼ”ではないことも少なくありません。
今回は、自分自身の体験もふまえて、「副腎クリーゼって何?」「どんなときに使う言葉なの?」「コートリルの追加の目安は?」という視点から、誤解されやすいポイントや、実際の対応について整理してみようと思います。
副腎クリーゼとは?
副腎クリーゼという言葉には、「命に関わるような急激な体調悪化」という意味があります。具体的には、コルチゾールが極端に不足することで、生命維持に関わるような重い症状が出る状態を指します。血圧低下・脱水・意識障害・ショック・けいれんなどが見られ、迅速な輸液やホルモン補充が必要なレベルです。放置すると、脳障害・多臓器不全・最悪の場合は死に至ることもあるため、早期の判断と対応が必要になります。
専門的な文献でも、副腎クリーゼは「循環障害を来す致死的病態」として位置づけられていて、内分泌領域のクリーゼの代表格とされています(日本内科学会雑誌105巻4号より)。そのため、医師から正式に副腎クリーゼと診断された場合は、点滴によるステロイド補充や輸液管理が必要となり、入院での経過観察が行われることが多いようです。

でも実際には、そこまで重篤な状態でなくても、「だるさがひどい」「吐き気や寒気がする」「消化器症状がある」「横になるしかない」といった不調が出ることもあります。体感としてはつらくても、こうした状態は、医学的には「副腎クリーゼ」ではないようです。
患者の勘違い
医師が「クリーゼではない」と判断するのは、あくまで医学的に見て“まだ命に関わるような重篤な状態には至っていない”という意味です。けれど患者側としては、「ここまでしんどいのに、それでもクリーゼじゃないの?」と感じてしまうことがあります。
その背景には、「副腎クリーゼ=酷めのコルチゾール不足」というように、言葉の定義を間違った意味でとらえて広まってしまっている影響もあるのかもしれません。
この“言葉のズレ”があると、医師の説明と患者の受け取り方にギャップが生まれ、たとえ「心配ありませんよ」と言われても、不安が解消されなかったり、誤解によって誤った判断をしてしまうこともありますね。
- 患者の認識:「今日はだるいし、吐き気もあったし、頻脈もあって、盛大な“クリーゼ”です」(=本人としては非常にしんどく、いつもと違う体調不良)
- 医師の判断:「血圧は保たれているし、意識もある。副腎クリーゼとは言えない」(=医学的に言う“クリーゼ”ではない)
このような場面で、医師が「それは“前駆症状”だったかもしれませんね。クリーゼではないですが、早めに対処できたのは良かったと思います」といったふうに説明してくれると、安心したり理解したりできますが、現実にはそこまで丁寧なフォローが難しいこともあります。
また一方で、医師側も「患者さんが少し違った意味で使っているのは気づいているけれど、訂正すると気を悪くするかも」「今さら言いづらい」と思って、あえて触れずに見守っているケースもあるのかもしれません。
定義を見直したきっかけ
私の場合、主治医から「クリーゼになる可能性は低い」と言われていたことから、「コルチゾール不足にならないところまで回復した」と誤解してしまっていました。それで、あるシックデイの際にコートリルを追加せずにしばらく様子を見てしまい、その結果、“プレ・クリーゼ”と呼ばれる複数の症状が現れ、最終的に病院で対応していただくことになりました。
病院を受診する前にコートリルを追加したものの、症状はすぐに改善しませんでした。意識があり、服用したコートリルも吸収されていて、心電図に異常がなかったため、「クリーゼには至っていない」との診断でしたが、回復には輸液が必要な状態でした。
こちらの図では、今回“プレ・クリーゼ”で出た症状を青枠でマークしています。コートリル10mgを飲んでから受診したからなのか、低血糖にはなっていませんでした。この状態だと、コートリル飲んだだけでは持ち直せず、輸液とあわせて初めて「生きた心地がしない体調」からは脱しました。

そのとき私自身も、SNSなどで見かけた“クリーゼ”の表現に影響されていたのか、「え?これってクリーゼじゃないんですか?」と先生に直接聞いてみました。すると先生は、「副腎クリーゼは、命に関わるようなレベルの状態を指します。今のあなたの状態は、そこまでではないけれど、前駆症状が出ていたので、コルチゾールの追加が必要な状態でしたね」と説明してくれました。
このとき初めて、今まで感じていた“クリーゼって一体どこから?”というモヤモヤが腑に落ちました。
こうした“言葉のズレ”や思い込みは、ときに重大な判断ミスにつながってしまうことがあります。なので、「副腎クリーゼ」という言葉の意味や正しい使い方を知っておくことはとても大切だと感じています。
追加の目安
こちらの図では、コルチゾール不足のサインと、副腎クリーゼに至る流れ、そして欧米の患者さんが目安にしている「いくつかの症状が重なったときの追加の目安」などを整理しています。

「副腎クリーゼを疑う症状」が出た時は、「副腎クリーゼ」まで進んでしまわないように、適切なコートリルの追加などで対処しなければなりません。
増量と副作用
コートリルは一時的な増量なら副作用の心配は基本的に少ないとされていますが、ゼロではありません。体調が悪いからといって、どんどん追加するのではなく、少し様子を見ながら、必要な場面で適切な量を補うことが大切だと言われています。
また、医師から「どんな状態でも無条件で追加してよい」と明確に指示されている「個別対応」の方もおられます。その方々は一般治療とは前提が違うので、状態が違う患者さんの飲み方に引きずられすぎないようにするのも大事ですね。
副作用を考えると、「一時的に足して戻す」はOKでも、その頻度があがればリスクが上がります。大事なのは、「なぜ追加したか」「どれだけ頻繁に追加しているか」ということも把握して、改善できる部分は改善していくことです。
そうやって、なるべく追加しないで済む体に整えて、「どう追加するか」ではなく、「どう追加しないで過ごせるようにするか」を考えることが、補充療法と長く安定して付き合っていくためのカギになると思います。
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※体験をもとに整理した内容であり、医学的助言を目的としたものではありません。医療に関する判断を行う際は、必ず医師にご相談ください。
