Note薬剤性のHPA軸抑制

副腎機能を「回復」させる薬やサプリは、現時点で科学的に確認されていませんが、「HPA軸(視床下部ー下垂体ー副腎)を抑制してしまう薬や成分」は、かなり前から薬理学や内分泌学の領域で整理されています。

2008年に発表された Drugs and the HPA axisAmbrogio AGほか, Pituitary)では、抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)や抗うつ薬、鎮痛薬(オピオイド系)など、多くの薬がHPA軸に影響を与えることが報告されています。中には、薬の中止や代謝の改善によって、時間をかけてHPA軸の反応が戻ったケースもあるようです。

ベンゾジアゼピンの影響

ベンゾジアゼピン(睡眠薬や抗不安薬)は、脳を落ち着かせる薬として知られていますが、実は「ホルモンを出す司令塔」である下垂体にも直接作用します。下垂体にはGABA(γ-アミノ酪酸)とベンゾジアゼピンが結合する場所があり、そこを通じてACTHやコルチゾールの分泌を抑えてしまうことがあるそうです。長く服用を続けるとHPA軸が弱まり、体が副腎不全のような状態になることがあるそうですが、ベンゾを中止したあとにホルモンの働きが自然に回復したケースも複数報告されています。

抗うつ薬の影響

抗うつ薬は、気分を安定させる一方で、ストレスホルモンの調整にも関わります。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)では、服用初期に一時的なコルチゾール上昇が起きることがありますが、長期間の使用で反応が弱まることもあります。研究ではデキサメタゾンやCRH負荷試験で時間の経過とともにACTH・コルチゾールの反応が低下する傾向が見られたそうです。また、三環系抗うつ薬は、下垂体でのCRH関連遺伝子の働きを抑える作用があり、長期的にHPA軸の反応が鈍くなると考えられています。

オピオイド・拮抗薬の影響

オピオイド系の鎮痛薬は、脳内のオピオイド受容体を介してCRHやACTHの分泌を抑えるため、長期使用でHPA軸の働きが弱まります。その結果、副腎機能低下に似た症状を起こすことがあるそうです。一方で、ナロキソンやナルトレキソンといったオピオイド拮抗薬は、反対にHPA軸を刺激し、ACTHとコルチゾールを増やす方向に働きますが、拮抗薬の長期使用では過剰な刺激によってHPA軸の反応が鈍くなることもあり、状態によっては一時的に抑制的に見えるケースもあるようです。また、一過性のコルチゾール上昇が検査時に重なると、実際よりも機能が保たれているように見えてしまい、「副腎不全ではない」と誤って判断されることもあるとされています。

吸入ステロイドとCYP3A阻害薬

喘息やアレルギー治療で使われる吸入ステロイドも、安全とは限りません。抗真菌薬や抗菌薬などのCYP3A阻害薬と併用すると、体内での代謝が遅くなり、ステロイドが長く残ってしまうことがあります。その結果、血中濃度が上昇し、医原性クッシング症候群やHPA軸の抑制を起こすことがあり、実際に「体調不良の原因が副腎不全だった」という報告も少なくないそうです。吸入薬でも状況によって全身に影響が及ぶことがあるため、長期使用中の人は薬の組み合わせに注意が必要です。

※その他の詳細は、コルチゾールに影響する成分にも追記しています。

このような薬の影響で一時的にHPA軸が抑えられると、検査で「コルチゾールが低い」「ACTHに反応しない」といった結果が出ることがあり、それを「本当の副腎不全」と誤解してしまうと、必要のないステロイド補充が長期化してしまうこともあります。

一方で、HPA軸が十分に働いていないのに、拮抗薬やACTHとコルチゾールを増やす方向に働く薬剤の影響で「検査では正常」となり、診断まで至らないケースも考えられます。その結果、「明確な病名がつかないけれど体調が安定しない」という状態につながることもあるようです。

つまり、HPA軸の抑制には「薬による一過性のもの」と「診断に至らない機能低下」のどちらの可能性もあるため、服薬歴や体調の経過を含めて丁寧に見ていくことが大切だそうです。

一過性の抑制と回復

薬の影響で一時的にHPA軸が抑えられている場合は、原因となる薬を減らしたり中止できれば、数週間〜数ヶ月で自然にコルチゾール分泌が戻るケースもあるそうです。ただし、ベンゾジアゼピン系の薬はステロイドと同じように、急に減らしたり中止したりすると危険で、離脱症状や体調の悪化を招くことがあります。そのため、医師の指導のもとで慎重に調整することが重要です。

このように、ステロイドだけでなく「脳や神経に作用する薬」も副腎に影響する可能性があることを知っていれば、病院で見落とされることがあっても、自分を守れる場面が増えるのではないかと思いました。

参考

Drugs and HPA axis
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18404384/

Drugs and Cortisol – Good Hormone Health
https://www.goodhormonehealth.com/articles/Drugs_and_cortisol.pdf

The neuro-endocrine impact of 3-hydroxy-diazepam (temazepam) in women.
https://link.springer.com/article/10.1007/BF00433404

Intravenous alprazolam challenge in normal subjects: Biochemical, cardiovascular, and behavioral effects.
https://link.springer.com/article/10.1007/BF00589900

Secondary adrenal failure due to long-term treatment with flunitrazepam.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16984251/

2025.11.7 掲載

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