Hintステロイドと副腎萎縮
ステロイド(糖質コルチコイド)を長く使うと、副腎がだんだん小さくなり働きにくくなる──そんな現象が知られていますが、今回の九州大学の研究では、その理由を分子レベルで詳しく調べていました。

ステロイドを長く使うと、ACTH(副腎を動かすホルモン)の働きが徐々に弱まっていきます。ACTHが低下すると、副腎の細胞で抗酸化酵素がつくられにくくなり、その結果、細胞の中に活性酸素(ROS)がたまりやすくなるようです。ROSが増えるとミトコンドリアが傷み、副腎の細胞が弱っていきます。こうした流れの積み重ねで、束状層が薄くなり、副腎の萎縮が進むと考えられていました。
一方で、ACTHがしっかり働いている環境では抗酸化酵素が増え、副腎の細胞を守る力が保たれます。実験でも、ACTHを同時に投与した場合は、副腎の萎縮や細胞死がほとんど見られなかったと報告されていました。
ACTHは技術的には人間にも投与できますが、作用時間が短く、刺激を維持しにくいことから、治療として長期的に使われることはないみたいです。また、副作用の強さや安全性に関するデータも限られているため、コルチゾール不足のための補充療法でもステロイドが一般的だと思います。
ただ、今回の研究のように「ACTHが働いている状態だと副腎が守られやすい」という結果を見ると、ステロイドの量や種類を調整する際に、ACTHを完全にゼロにしない工夫が大事なのかもしれません。特に回復の途中にいる人は、ACTHの反応が残っている時期に過度な抑制を避けることで、副腎の回復力を守りやすくなる可能性があるように感じました。
実際に、私自身が回復期に医師からアドバイスされていた内容とも重なる部分があるように感じました。回復の途中では、あえて補充をしない時間帯をつくり、自前のACTHが働く余地を残すことで、副腎が“完全に上書きされ続けないようにする”という調整を続けていました。
もちろん治療は個別ですが、ACTHが少しでも働ける時間が確保されていることが、副腎の回復を支える場面もあるのかもしれません。
出典
日本内分泌学会雑誌(2025年101巻)糖質コルチコイド過剰に伴うACTH欠乏は副腎皮質細胞に抗酸化酵素発現を抑制する
https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrine/101/3/101_715/_pdf/-char/ja
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