Hint不足した分だけの補充 必読

「追いコートリル」の繰り返しでは体調が安定しない理由をまとめてみました。

補充療法は「たくさん飲めば効く」という仕組みではなく、体のリズムに近づけるほど安定しやすいことが、ここ数年の研究でも示されています。海外の専門書や論文でも、その考え方が前提になっていて、多くの患者さんが「増量せずに整った」と話しています。国内では令和6年度市民公開講座でも、同じ考え方が紹介されていましたね。

追いコートリルの問題点

日本の一部で行われてきた「追いコートリル」は、この「自然なコルチゾールのリズム」という考え方を踏まえていなくて、しんどい時に自由に「罪悪感なく気軽に」追加する方法として広まっていました。いつの間にか「コルチゾール不足以外の不定愁訴」にも幅広く使われてしまい、1錠単位で頻繁に追加するケースや、処方量では追いつかなくなり、ステロイドを個人輸入して自己判断で増やしていた人がいた、という話も耳にしました。こうした背景もあって、体調が安定しないまま増量だけが続き、減らせなくなる方が出てしまっています。

増やさずに改善する方法

ここ数年の研究では、量を増やすのではなく、日内リズムに合わせて“分割の仕方”を調整することで安定するケースが報告されています。例えば下の図のように、3分割(10-5-2.5)を4分割(7.5-5-2.5-2.5)にしたことで整ったケースがあります。夜中の「コルチゾールがゼロになる時間」を補ってあげると、翌日の体調がよくなり、そのまま安定していく人は結構いるそうです。

[出典]Hindmarsh, Peter C.; Geertsma, Kathy. Replacement Therapies in Adrenal Insufficiency. Elsevier Science. Kindle.

“ちょっとした谷”の時間

ここでポイントになるのが、この“ちょっとした谷”です。このようにコートリルが切れる時間帯は、回復する人・機能維持する人にとって大事な「ACTHが働く準備をする時間」になりますね。そして、副作用のリスクをリセットする時間でもあるので、この時間とうまく付き合っていくことが大事だと思っています。

そう考えると、自由にコートリルを頻繁に追加するのではなく、ガイドラインにもあるように、「なるべくベースだけでリズムを保つ」方が、安定や自発を残すためには良い方法と感じています。

後から追加する場合のリスク

では、この3分割(10-5-2.5)の人が、ベースだけでリズムを保てず、追いコートリルをした場合はどうなるでしょうか。この図にある数値を参考にすると、7時服用の7.5mgは27mg相当、13時服用の5mgは22mg相当、18時服用の2.5mgは18mg相当になります。(血中コルチゾール値300nmol/Lは、10.87μg/dLに相当)

このように、コートリル10mg=コルチゾール10μg/dLではないため、後から追加すると想像以上の増量になってしまうことがあります。こうした状態が頻繁に続くと、少しずつ自発機能が弱っていくので、やはり、追いコートリルを予防して、なるべくベースだけでリズムを保つことが大事だと思います。

そして、この内容を参考にすると、「後から足すなら1.25〜2.5mgで十分」というのは、かなり理にかなっているように思います。

ステロイドカバーとの違い

シックデイなど負荷がかかることがわかっている時は、ガイドラインにある通り「その日の予定投与に上乗せする」という方法が一般的です。例えば倍量にする日は、いつもの各タイミングはそのままに、それぞれの回を2〜3倍にするやり方で、日本のガイドラインにも記載があります。

図からもわかるように、コートリルは量が多くなるほど血中濃度が一気に上がる一方で、持ちは逆に悪くなる仕組みになっています。この方法なら、ACTHを出すための“谷”を保ちながら過ごせるので、後から追加する「追いコートリル」と比べると、自発機能が抑え込まれてしまうリスクを減らせる可能性があるように見えます。

ただし、ステロイドカバーはあくまでも「短期間の増量」であれば、副作用リスクを大きく気にしなくてよい位置付けになっています。そのため、負荷が落ち着いたら速やかに元の予定投与に戻すことが前提とされています。日常化させないことと、長引かせないことが、体調を安定させるうえでも大事なのかなと思います。


2025.11.26 掲載

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