Hint追いコートリルの由来 必読
副腎皮質機能低下症のガイドラインでは、コートリルの飲み方は大きく分けて次の3つに整理されています。
- 予定投与(毎日行うもの)
- ステロイドカバー(必要な日にだけ一時的に増量する調整)
- レスキュー投与(副腎クリーゼの前兆がある時だけ行う)
日常的に行うのは「予定投与」だけで、ステロイドカバーは「明確な負荷がある日にだけ一時的に増やす調整」、レスキュー投与は「命に関わる前兆がある時の最小限の緊急対応」という位置付けになっています。ところが、日本には「追いコートリル」という独自の飲み方があり、ガイドラインにある「ステロイドカバー」や「レスキュー投与」とは違って、日常的に行うような位置付けになっています。
この言葉があることで、自分がどの投与をしているのかが曖昧になりやすく、本来は“ステロイドカバー”として予定投与を増やす場面だったのか、“レスキュー投与”として緊急対応が必要だったのか、その境界がぼやけてしまうことで、予防の意識が薄まり、結果的に予定外の追加が増えてしまったという声もいただいています。
もし「追いコートリル」と呼んでいる行為が実はレスキュー投与であれば、それが日常的に必要になっている時点で、そもそも問題が隠れている可能性があります。逆に、ステロイドカバーに該当するのであれば、本来は事前にある程度コントロールできる部分もあって、飲み方やスケジュールを工夫することで、大きな増量を避けられることもあるはずです。
欧米の方々の方法
例えば、欧米の方々の多くは、日常生活でのイレギュラーな負荷の際も、いつもの予定投与を少しだけ増やす方法で、その直後に負荷が来るように工夫して過ごしています。運動もこのタイミングで行っていて、慣れていくことで追加なく動ける体を作っています。このような先手の対策を怠り、後からのレスキュー投与だと量が増えてしまうので、それが日常化しないように注意しています。
後からのレスキュー投与を予防した「不足した分だけの補充」で体調が安定している人も多く、自発機能がないアジソン病の方でも、工夫しながら運動を日常に取り入れているケースがいくつも紹介されていました。
個別対応から産まれた言葉
副腎皮質機能低下症の研究やガイドラインの多くは、「副腎皮質機能低下症だけ」の患者さんを前提に組み立てられています。他の疾患や合併症が多い場合は、通常の補充療法ではうまくコントロールできず、主治医の判断で「好きな時に好きなだけ飲んでください(でも自発を失う可能性と副作用はありますよ)」という個別対応が行われることもあると思います。
これは、他の病態が複雑に絡んでいるため、一般的なリズム補充だけでは対応しきれないケースが存在するからだと思います。ただ、こうした特別な方法は“その方だからこそ必要になる例外的な調整”であって、もちもん副作用リスクも伴いますし、すべての患者さんに当てはまるものではありません。
実は、日本で「追いコートリル」という言葉が広まった背景には、ある特定の患者さんのケースがあったようです。私が診断された当時の情報を見た限りでは、その方は自発が残っていないタイプで、比較的多めのコートリルを使っていても不安定になりやすい状況にあり、主治医から「好きな時に飲んでいい」という個別対応が許されていた方でした。
その方ご自身が、「罪悪感なく追加できるように」という意図で、この言葉(追いコートリル)を作ったと説明されていました。つまり、本来は“自発が無く、自由な追加が必要な特殊な症例”に由来する用語だったということですね。
ところが、その背景が十分に共有されないまま広まってしまい、一般の患者さんの間で「自由に追加していい飲み方」というニュアンスだけが残ってしまったことで、治療の前提や病態の違いを飛び越えて使われています。
自発が残っている人の場合は、この方法を真似すると自発機能を失うリスクがあるので、「追いコートリル」という言葉を使うのは自由ですが、同じような飲み方になってしまわないように、しっかり区別しておくと安心だと思います。
標準的な推奨
オンライン医療講演会(2024.12.08)では「しんどいとだけで安易に増量しない」とされ、第13回市民公開講座(2024.12.15)では「過剰によるリスク」が強調されていました。令和6年度市民公開講座(2025.02.08)では「コートリルは多ければ効くわけではない」「余分に補充しないことが重要」「ドーピングのような過剰な服用は逆効果」「ホルモンの谷底を低くしすぎない調整が大事」と説明されています。第5回大阪下垂体セミナー(2025.03.14)でも「日常の補充量は多くても15mgまで」とされていました。
こうして並べてみても、自由に飲んでよいという指導は一度も示されておらず、どの講演でも一貫して「必要最低限」を前提とした調整が強調されているように思います。
私のステロイドカバー
私は自発があったので、予定投与は「朝1回服用」で、負荷がある日は朝の量だけを増やすように指導されていました。それ以外の時間帯の追加は、あくまでも「背に腹を変えられない緊急時のみ」のレスキュー投与で、それも必要最低限に留めるように指導されていました。レスキュー投与が必要な“緊急時”は頻繁に起きるわけではないですし、起きないように普段から予防して過ごしていました。
発熱や感染症などのストレスドーズも、基本は「朝のみ上乗せ」で対応していて、高熱時には5mgの追加をすることもありましたが、必要ないこともありました。怪我をした時だけは、その直後にステロイドカバーをしました。微調整が必要なときは、1.25〜2.5mgの範囲で行い、その頻度が増えないようにセルフケアで整えながら生活していました。
こうしたコートリルの調整は、受診のたびに主治医に共有して答え合わせをしていました。そのおかげで、国内外のガイドラインに書かれている「ステロイドカバー(ストレスドーズ)」の範囲から大きく外れることなく、自発をキープしたまま過ごすことができたと思います。
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※体験をもとに整理した内容であり、医学的助言を目的としたものではありません。医療に関する判断を行う際は、必ず医師にご相談ください。
