Hintステロイドの作用と副作用

副腎皮質機能低下症の補充療法は、コートリル(ヒドロコルチゾン)というステロイドが使われる理由と、この病気を悪化させない為にできる事をまとめてみました。

ヒドロコルチゾンの特徴
  • 体内で自然に作られるコルチゾールに最も近いステロイド
  • 半減期が比較的短く、体内で速やかに代謝される
  • 自然なコルチゾールの分泌パターンに近い投与が可能
  • 他のステロイドに比べ、長期使用に伴う副作用のリスクが比較的少ない
  • 用量を細かく調整しやすく、必要最小限の量で治療しやすい

なので、欧米でも コートリル(ヒドロコルチゾン) は、特殊なケースを除き第一選択肢とされています。例えば、コートリルでは十分な体調維持ができない患者さんや、コートリルが手に入らない国の患者さんなどが該当します。ただし、「自然に近い」と言われるコートリルでも、以下の図のように時間帯によって過剰や不足が生じることがあるとされています。

日内変動と補充量日内変動と補充量のイメージ(=参考

ステロイドの種類

ステロイドには複数の種類があり、それぞれ糖質コルチコイドの抗炎症作用と鉱質コルチコイドの電解質調整作用に違いがあります。

糖質コルチコイドは炎症を抑える働きを持ちますが、糖尿病・高脂血症・高血圧・胃潰瘍・骨粗鬆症・肥満・ムーンフェイス・易感染性・精神症状・不安やうつ・白内障・緑内障のリスクが伴います。鉱質コルチコイドは電解質バランスを整える作用がありますが、心疾患や高血圧のリスクが伴います。

経口ステロイドの薬理作用と特徴経口ステロイドの薬理作用と特徴

コートリルの抗炎症作用と電解質作用はどちらも「1」とされていますが、プレドニンは抗炎症作用が「4」、電解質作用が「0.8」と定義されています。

つまり、コートリルと同じ量のプレドニンを服用すると、炎症を抑える力は4倍になりますが、糖尿病・高脂血症・高血圧・胃潰瘍・骨粗鬆症・肥満・ムーンフェイス・易感染性・精神症状・白内障・緑内障などのリスクも4倍になるということです。一方で、電解質を整える作用は弱くなるため、心疾患や高血圧のリスクは低くなるようです。

短時間型のコートリルは、ステロイドの効果が半日くらい続くとされています。中時間型のプレドニンは1日ほど、長時間型のデカドロンは2日程度効果が持続するようです。このように、持続時間の長いステロイドは自然なコルチゾールの分泌パターンに合わせることが難しく、ACTHを抑える時間が長くなることから、副作用のリスクも高まると考えられています。

また、プレドニンやデカドロンはコートリルに比べて血中コルチゾール値としてカウントされにくいとされていて、採血の結果ではコルチゾールの数値が低く出ることがあるようです※1。ただ、それは単に数値として見えにくいだけで、上記のようなステロイドの作用や副作用がないわけではありません。

  1. 日本内科学会事務局会議室の資料「副腎不全に対する副腎ホルモンステロイド 補充療法の現状と展望」では、プレドニンはコートリルの測定値に干渉する可能性が高いと書かれています。

実際に、副腎皮質機能低下症の蓄尿検査の際、服薬をゼロにできない場合の代替手段として、デカドロンを使って補充し、副腎クリーゼを予防することがあります。また、プレドニンの服用が原因で、医原性の副腎皮質機能低下症になる方も少なくありません。

先日の下垂体ミニレクチャーの質疑応答でも、コートリルを少量で投与したい場合の方法として「プレドニンなら1mg錠があるので、割って服用する」という提案がありましたが、副作用の観点から、やはりコートリルの方が最適だという結論になっていました。


このようなメカニズムを考慮すると、副腎皮質機能低下症で回復を視野に入れている場合や、機能低下を悪化させたく無い場合は、なるべくコートリル以外のステロイドを使わずに過ごし、コートリルで日内変動を上手く模造して、自分の副腎機能を温存する事が重要です。

ちなみに、コートリルを朝や昼頃の1日1回の服用にすれば、かなり副作用リスクが軽減される※2と主治医のS先生も話していました。軽症の方々の場合は、なるべく体調を整えて、1日のどこかでステロイドを一旦ゼロにする時間を作って、自分の副腎機能だけで過ごすタイミングを持つと良いそうです。

  1. それでも毎日微量でも余り続けた場合は、副作用を感じていたので、やはり適量模索が大事な様です。
2024.7.26 掲載

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※医療も翻訳も素人で、コメントも個人的な感想・見解です。