
第45話「興味深い情報」
この病気と診断されて3ヶ月ほど経った頃、欧米の情報を検索している中で興味深い記事を見つけました。その記事をきっかけに、服用中や過去に服用していた薬を見直したところ、内科で職業病からくる緊張性頭痛に処方されていたデパス0.5mg(常用していたが断薬済み)や、循環器科で頻脈に処方されていたワイパックス0.5mg(不整脈の薬と合わせて頓服・たまに使用)などが該当していることがわかりました。
ベンゾジアゼピンとコルチゾール
これら2つの薬はベンゾジアゼピン受容体作動薬に分類され、頭痛や頻脈だけでなく、精神安定剤・睡眠薬・整形外科での痛み止めとしても処方されることがあります。詳しく調べたところ、厚生労働省も注意喚起を行っており、リスクを理解している医師は積極的に処方を控える傾向にあることがわかりました。
というのも、この薬はステロイドと同様に、短期間の使用であれば効果的で安全ですが、長期使用では耐性や依存が形成されるリスクがあります。減薬や断薬に伴う離脱症状だけでなく、少量の服用中でも離脱症状が現れることが報告されています。これらの症状には、頭痛・痛み・脱力感・疲労感・霧視・過敏性・消化器系の不調・動悸などがあり、コルチゾール不足の症状と重なる部分もあります。加えて、HPA軸(視床下部ー下垂体ー副腎)に悪影響を与える可能性も指摘されていたため、より詳しく調べることにしました。
[参考]ベンゾジアゼピン離脱症候群 – wikipedia
[参考]ベンゾジアゼピン離脱症状について – Benzo Case Japan
- 資料のAI要約
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ベンゾジアゼピン系の薬の摂取は、HPA軸(視床下部ー下垂体ー副腎)の機能に影響を与えます。GABA作動性を高め、GABA-グルタミン酸バランスを変えます。これにより、CRHおよびAVPのレベルが低下し、HPA軸が抑制されます。また、海馬にも影響を与え、HPA AXIS活性の調節に関与するグルココルチコイドフィードバックのメカニズムを崩します。これにより、コルチゾールやDHEAの産生が減少し、テストステロンやエストロゲンのホルモン生合成も減ります。
- ベンゾジアゼピンが中止されると、HPA軸のリバウンドアクティベーションが発生する
- ベンゾジアゼピンの投与間離脱で、抑制の繰り返しパターンやリバウンドが発生する可能性がある
- ACTHおよびコルチゾール濃度は、ベンゾジアゼピン中止後に劇的な増加を示す
- ベンゾジアゼピンによって、ACTHに対する副腎の感受性が乱される可能性がある
- ベンゾジアゼピンは副腎に特異的な受容体を持つ
- ベンゾジアゼピンはACTHに対する帯状帯の感受性を鈍くすることによって副腎にも作用する
- 副腎皮質ステロイドはベンゾジアゼピンに対して交差耐性※1 で、HPA軸に対して同様の効果を有する
- HPA軸・x-CRH・AVP・ACTHは長期間抑制されたままになる可能性がある
- 副腎皮質ステロイド治療中止後のHPA軸の回復期間は、ベンゾジアゼピン離脱の回復期間に似ている
[出典]どのようにしてベンゾがHPA AXIS障害を引き起こすか – ベンゾジアゼピン情報センター
ベンゾジアゼピン情報センターの公式サイトによると、ベンゾジアゼピンはCRHやACTHの分泌に影響を与え、コルチゾール・DHEA・テストステロン・エストロゲンを低下させるだけでなく、ACTHに対する副腎の感受性を乱し、長期間抑制された状態が続く可能性があると記載されていました。
ベンゾジアゼピンの投与中や投与期間中にHPA軸の機能抑制が起こったり、中止後にACTHとコルチゾールが急激に増加したり、副腎皮質ステロイドと交差耐性※1の関係があることなどが報告されています。副腎が健康な方なら問題にならないかもしれませんが、副腎皮質機能低下症でコートリルを補充し、数値を手がかりに体調を管理している私にとっては、見過ごせない情報でした。
この情報に詳しいオンライン診療のS先生によると、欧米の論文でもベンゾジアゼピン服用中はコルチゾール濃度が低下し、断薬後はリバウンドで上昇すると報告されていることを教えていただきました。
[参考]Benzodiazepine suppression of cortisol secretion: a measure of anxiolytic activity?
[参考]Impaired HPA system is related to severity of benzodiazepine withdrawal in patients with depression
ベンゾジアゼピンは依存性が高く、減薬も難しい薬とされており、厚生労働省のマニュアルでは非ベンゾジアゼピン系薬剤も含めて注意喚起されています。アシュトンマニュアルにも、作用機序や影響は同様で、これらの薬剤は全て短期間(最長2~4週間)の使用に限ることが推奨されていると記載されていました。
[参考]重篤副作用疾患別対応マニュアル 厚生労働省
[参考]アシュトンマニュアル(和訳)- Benzo Case Japan
回復の可能性
私の負荷試験の検査結果では視床下部性の疑いがあり、ACTH負荷試験やCRH負荷試験では副腎の感受性が低く、インスリン低血糖試験でも低反応を示しました。また、DHEAとテストステロンが低値で、プロラクチンがやや高めであったことから、資料に記載されていた状態と類似しているように感じました。
オンライン診療のS先生に相談したところ、コルチゾール不足とベンゾジアゼピンの関係については少数例を用いた研究報告があり、国内でもいくつかの症例が研究中とのことでした。少量しか服用していない私の場合でも、状況によってはベンゾジアゼピンの影響が関与している可能性がゼロではなく、服用を控えることである程度副腎機能が回復し、その状態が持続する可能性があるとコメントをいただきました。
HPA軸に負担をかけないライフスタイルは、続発性副腎皮質機能低下症の体調管理にも共通することから、ベンゾジアゼピン情報センターの記事(=画像)に記載されていた内容を参考にし、HPA軸の回復に向けてできることをリストアップし、日々継続していました。
体調不良の原因やコントロールの難しさがベンゾジアゼピン服用歴の影響ではなかったとしても、この種の薬によってコルチゾール濃度が低下し、その結果必要なコートリルの量が増える可能性があると考え、胃カメラや外科手術時の記憶消失を目的とした単回使用(ドルミカムなど)を除き、服用を控えて過ごしていました。
[出典]どのようにしてベンゾがHPA AXIS障害を引き起こすか – ベンゾジアゼピン情報センター
機能が回復
偶然かもしれませんが、体調は次第に上向き、初期には分泌が低かったACTHも少しずつ改善しました。最後にベンゾジアゼピンを服用してから1年半が経過した2023年11月の定期検査では、慎重な診断を行う内分泌専門医のS先生から、回復しているかもしれないとの診断をいただきました。
内分泌のT先生からのアドバイスでも、コートリルは他の薬の影響を受けやすく、併用注意の記載がない薬でも影響する可能性があるとのことでした。実際に、体感を頼りに試しに断薬した患者さんの体調が改善したという情報もあり、私の場合も何らかの悪影響があったのかもしれません。
それ以外にも、生活や睡眠の質を改善したり、欧米の情報からヒントを得たり、服薬量について学んだり、不調を改善する工夫をしたり、害のある人間関係から距離を置いたり、漢方薬で体質を整えたりと、できる限りのことを並行して行っていました。正直何が効果的だったのかはわかりませんが、副腎皮質ステロイドはベンゾジアゼピンに対して交差耐性があることと、服用によってコルチゾール値が下がることを知っていたことが、副腎皮質機能低下症の服薬や体調管理だけでなく、今後の人生においてもプラスに働きました。
というのも、今年の初めにヘルニアと診断された際、担当医からベンゾジアゼピンを含む痛み止めを提案されましたが、この知識があったおかげで使用を避ける選択ができました。その代わりに、定期的な鍼灸院でのケアを続けることで、痛みのない状態を維持できています。針治療と食生活の改善により頭痛も軽減し、頻脈はワソラン(カルシウム拮抗剤)のみで対処できているため、リスクのある薬に頼ることなく過ごせています。
この情報に出会ったことで、体調不良がコートリルで改善しない場合や、推奨量を超えて服用しても症状が消えない場合、さらには予期しないタイミングで効果を感じる場合には、併用している薬を見直すことで、体調管理がより容易になるかもしれないと思うようになりました。私と似た経過をたどった方の場合、回復の可能性もあるかもしれません。回復が見込める場合、資料にもあるように、副腎皮質ステロイド治療中止後のHPA軸の回復期間と同様に年単位を要するようなので、気長に取り組む必要がありそうです。
これらの情報は調べれば見つけられるため、すでに知って実践している方も多いかもしれませんが、私の数値が回復した一因である可能性もあり、HPA軸の回復のためのリストを作成する際の根拠にもなりました。そこで、体験談を交えながら今回まとめてみました。
これまでの経験から、たとえ主治医に勧められたことでも、必ず自分でしっかり調べ、リスクを理解した上で判断し、取り入れるというスタンスを取るようになりました。また、食事から良質な栄養を摂ることを心がけ、不調はできる限り治療し、薬だけに頼らないことが健康への近道だと実感しています。
決して良い患者とは言えない私を受け入れ、多くの気づきを与えてくださった内分泌専門医のS先生、そして回復の可能性についてアドバイスをくださり、この記事の作成においてもエビデンスの確認をサポートしてくださったオンライン診療のS先生に、心からお礼申し上げます。
- 交叉耐性:ある薬物に対して耐性が形成された時に,その薬物と類似の構造や作用を有する他の薬物に対しても耐性が生じることを,とくに「交叉耐性」という。
[出典]日本救急医学会 医学用語 解説集